二章二話
「それにしても、この神徒もついでに連れてけって、我らがボスは何考えてんだか」
「さぁな」
そっけなく答えるが、咲岡には心当たりがあった。ミュズィースの声を聞くと、どんな生物であろうと彼女に従わざるを得なくなる。眠れと言われれば即座に眠り、踊れと言われれば気絶するまで踊り続け、死ねと言われれば心筋が動きを止める。それがテレパシーを介してできるのだ。彼女の声に逆らうことは前もって知らなければできない。
扉が開きつつある場合、往々にして扉の下には怪物が現れる。それに対してのとっておきの手段として、ミュズィースを連れていくのだろう。
ふと、何かに気がついた様子で、グレイが言う。
「ダンナ。なんか暑くねぇか?それに、そろそろ『門』の近くの連中に通信がつながる頃だよな?なんで艦内放送が流れねぇんだ?」
グレイの言葉を遮るように、警報が鳴り響いた。
<付近に異常なターナ値を観測。ターナ値は50。『門』により怪生物が出現したと思われる。総員戦闘態勢、繰り返す……>
ターナ値。神徒が常に発する独特な周波数の電波だ。どれほど本来の生態系から外れているかを表す指標と換言してもいい。人間サイズの標準値は1。ミュズィースの場合は34。50など、資料でしか見たことのない数値だ。
「おいおい……」
小銃のセーフティを外すグレイに、咲岡が告げる。
「落ち着け、グレイ。俺たちの任務はここで監視対象が逃げ出さないように監視をすることだ。高いターナ値を示す個体は『共振』する可能性がある。持ち場を離れるなよ」
咲岡もミュズィースの暴走に備えて持たされた特殊拳銃のセーフティを解除する。65口径の徹甲弾を射出できるように作られた三連装拳銃だ。
「ダンナ、それの出番はまだだ。……三時方向に不審物!」
言いながら、グレイは小銃を発砲する。咲岡がグレイの発砲した先を見ると、艦内の通路を塞ぐように青銅色の扉が出現している。腰に装備してある携帯用ターナ値計測器をそちらに向けた咲岡は、緊迫した声で言う。
「ターナ値50。グレイ、発砲し続けろ。あの門を破壊するんだ」
「言われなくてもそのつもりだが、ダンナ、65口径をぶちかましてくれ。これじゃ破壊力が足りない」
特殊拳銃はあらゆる面で桁外れな銃だ。発砲の衝撃で手首を傷めることもある。咲岡は、あくまで冷静に両手で青銅色の扉に狙いを合わせた。
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