一章十一話

「春休み。春休みか……」

学年末試験はもう終わってしまっている。萌子は二年生も引き続き部活ができると喜んでいたし、侑里も二年生になる。

「コーにいどうしてるかな……?」

楠木隆康たかやす。侑里に推薦枠で高校入学を勧めた、侑里の従兄弟だ。侑里の5歳上で、今は『門』の調査団に所属している。調査団の滞在期間は部隊毎に二ヶ月。隆康の部隊は今月終わりに滞在期間を終え、帰国するはずだった。侑里は毎日『門』の定点観測をしているサイトを確認しているが、今朝の時点では特に異常もなかったので、次の部隊に引き継いで隆康は帰国するだろうと考えていた。

侑里の携帯が震える。確認すると、隆康からのメールだった。

「母さんには伝えたんだが、引継ぎの部隊が洋上で事故にあった。門によって汚染された生物の仕業だ。今月終わりには帰れない」

門の影響は人類だけではなく、惑星上の全ての生物に及んでいる。門から遠いこの辺りでは影響は微々たるものだが、近海に与える影響は凄まじいものがある。足が何十本もある巨大なタコだの、巨大ロボットじみた形状の貝だのの写真を隆康から見せてもらったこともある。

返事を送ろうと隆康のメールを見たが、送信されたのは昨日の深夜だと書いてある。通信衛星の都合で、メールはかなりのラグが生じてしまうのだ。かと言って電話しようにも、今は侑里に構っている場合ではないだろう。電源が切られているという自動メッセージが聞こえるのが関の山だ。「うん、頑張ってね。応援してる」とだけ送信して、ニュースを確認する。

「え?」

トップニュースを見て、侑里は唖然とした。三十分ほど前から、『門』がゆっくりと開きだしたというのだ。青銅の門は開く角度によってもたらすものが異なる。出現時は全開180度だった。それから半世紀、不定期に開閉を繰り返しては、様々な災害をもたらす。前回は8年前の10月。その時開いた角度は約45度で、各地で大災害が同時多発的に起きた。全開時の四分の一とは言え、当時の傷がまだ癒えきっていない土地もある。

今回の場合はまだなんとか目視できるほどの開き具合で、ほぼ閉じた状態であるが、8年前を上回る可能性があるため、各地に注意報が出ているとのことだった。




二章へ続く。

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