一章六話
「きもっ」
思ったままが口をついて出た。少年はがっくりと肩を落とす。
「分かったよ、本当のことを言う。君には僕が見えているだろう?こうして話すこともできるのだから僕の声も聞こえているし、僕の演奏も聞こえていたはずだ。そうだね?」
「そんなの当たり前よ。何言ってるの。あんた半透明なだけでれっきとした人間じゃないの」
「僕が半透明になっている間は、君の第三の手と同じように、どんなものでも感知できなくなる。幽霊騒ぎは、僕がここで楽しく音楽をしているところを見つかってしまった結果というわけだね。とても大きな尾ひれがついてしまったようだけれど」
「それがどうして私の手が見えることに繋がるのよ」
「多分君の第三の手と僕の透明化は同じようなものだ。それを裏付ける証拠を見せよう」
そう言うと、少年はそっと左手を侑里の方に突き出すと、
「君は第三の手を出す時に見えない糸で固定するようにするだろう?僕の場合は……」
少年の手から細い紐が現れ、千切れ、そして消えていく。それと同時に、半透明の少年の左手が侑里の視界から消えた。手首から先が、CGで加工したかのように消滅してしまったのである。
「こんな風に、僕や君からさえも見えなくすることができる。全身をこうしてしまうと、僕は世界からも認められなくなるみたいでね、世界中どこにでも瞬間移動できるようになるんだ」
「すごい……!」
少年の一連の行動をじっと見ていた侑里の口から出たのは、先程とは裏腹な心からの賛辞だった。
「すごい!こんなことができる神徒なんて初めて見た!瞬間移動も!めちゃくちゃ便利じゃん!全身消したり出したりできるなんて!」
飛び上がらんばかりの侑里に、少年は首を横に振る。
「そんなに良いものじゃないさ。この能力にほとほと困り果ててしまったから僕は君に会って僕の能力を見せることに決めたんだから」
「僕は世界からも認められなくなるんだ」と言ったよね、と言って、幾度か深呼吸をしてから、少年は吐き出すように言った。
「僕の人生で一度だけ瞬間移動を使ったことがあるんだけど、その時に僕は自分の名前が思い出せなくなって、家族と友人からは存在を忘れられてしまった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます