30.最後のデート

待ち合わせ場所はあの観覧車のある駅だった。

少し早く着きすぎたみたいだった。

暖かくなってきたせいか、シーサイドパークはたくさんの人で賑わっている。

彼が来た。

彼女がすでに居た。

彼は相変わらずかっこいい。

彼女はやっぱり可愛い。

「早いね」俺が言うと

「京さんも」私が答える。

幾数回目のデート。

それでもやっぱり緊張する。

それほど、彼を、彼女を、愛しているのだと実感できる。

二人でまずバッティングセンターに行った。

彼女は初めてと言ったが、いきなり100キロを選ぶ。案の定、全然バットに当たらなかった。

私は彼と交代する。

彼は私が打てなかった、100キロを軽々と打ってしまった。

「凄い」

思わず声に出した。

彼は照れ笑いを浮かべた。

なんかちょっと可愛い。

その後は二人でクレーンゲームに挑戦し、いくつかの戦利品を取れた。

次にビリヤード。

そして、ショッピング。

そして、夕陽が海に沈むタイミングで観覧車に乗った。

初めてキスした場所だった。

私は彼をチラッと見た。

期待していた。

彼女は俺をチラッと見る。

なんとなく彼女の気持ちが分かる。

俺だって同じ気持ちなのだから。

俺はそっと彼女の肩に手を回し、ゆっくりと彼女の顔に近づく。

彼の手が肩に回った。

胸がドキドキする。

そして彼の顔が近づいてくる。

彼女はゆっくりと目を閉じた。

私はゆっくりと目を閉じる。

そして、彼女の、彼の、唇が触れた。

「大好き」

二人同時に言った。

 

 楽しい時間などあっという間に過ぎた。

彼女は少し悲し気な様子だった。

「送るよ」

俺が言うと、

「大丈夫です。ありがとうございます」

彼女はそう答える彼女の目には涙が出ていた。

「ど、どう……」

俺は聞くの止めた。

「京さん、大切なお話があります」

彼女は涙を流しながらそう言った。

俺は無言で彼女をじっと見つめた。

彼女が何を言うのかは想像がついていた。

「今まで、ありがとうございました。京さんに出会えて、本当に幸せでした……」

そこで言葉を詰まらせる。

俺は最後まで彼女の言葉を聞こうと思い、何も話さなかった。

「本当は、本当は、もう少し一緒に居たかったんです……でも、これ以上は、もう……」

彼女の涙が零れ落ちる。

「ご、ごめんなさい。最後ぐらいはちゃんと言わなきゃって思っていたのに……」

最後まで聞くよ。だからゆっくりでいいから、俺はそう思いながら彼女を黙って見つめる。

涙を手で拭きながら、

「これ以上、一緒に居ると、私が辛いんです……だから……もう会えません……」

彼女は最後まで言った。

そして彼女は声を上げて泣く。

俺はそっと彼女を抱きしめた。

「分かっていたよ。最後までよく頑張ったね」

覚悟はしていた。

いや、そうではない。

俺では、彼女を救えない。

そう確信していた。

だから、俺は諦めていたのかも知れない。

彼女は俺の腕の中で泣き続けた。

そして、別れの時。

彼女は精一杯の笑顔作って、

「大好きでした。さようなら」

そう言って、一人駅に向かった。

俺はただ、立ち去る彼女を見送っていただけだった。

俺の頬に涙が零れていた。

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