25.この世界のクレアーレ

 電車を降りて駅を出た。

駅前の商店街は休日ということもあり賑わっていた。

俺は地図を表示したスマートフォンを片手に商店街を抜ける。

商店街を抜けると、ひときわ海が一望できる道に出た。

その道を歩いていると、一軒の店を見つけた。

その道沿いに店はその一軒だけだった。

いや、店はおろか建物自体、俺の目に見える範囲では無かった。

俺はその店の前で立ち止まった。


なんだろう?どうしてかは分からないが、中に入りたい衝動に駆られる。

店の外観自体はそれほど変わった様子は無かった。

ただ、建っている場所が変だなって思った程度だった。

店は『クレアーレ』と書いてある。

なんの店かさっぱり分からないが、俺は店に足を踏み入れた。

店の中はこじんまりとして骨董品が綺麗に整理されている。

店の奥から一人の若い女性が顔を出した。

俺の動きが止まる。

女性の水晶のような瞳が俺の動きを封じた。

それはまるでギリシャ神話に登場する、メドゥーサのようだった。

「いらっしゃいませ」

女性の澄んだ声が俺の硬直を解除した。

俺は女性から目が離せなくなっていた。

色素の薄いウェーブのかかった長い髪。

口元のほくろが大人の女性を演出するのに最高のポイントとなっている。

「あの……お客様、そんなに見つめられると照れてしまうわ」

女性は口元に笑みを浮かべながら言った。

「あ、すいません」

咄嗟に謝った。

女性は笑みを浮かべながら

「今日はどういったご用件でしょうか?」

そう言うと俺をまじまじと見つめている。

俺は目を閉じ、そして深呼吸をしてから

「いえ、特に用事はないです」

はっきりとした口調で答えた。

「あら、それは残念ですわ」

女性の言葉を聞いてから、俺は出口に向かう。

「せっかくなので、お茶でもいかがかしら?」

出口に向かう俺を呼び止める。

「あ、いえ、結構です。俺、急ぎますので」

振り向かずにそう告げる。

「あら、もしかして、彼女と待ち合わせとかかしら?」

……

また俺は顔に出ていたのだろうか?

「どうしてですか?」

俺は振り返り聞く。

「いえ、特に意味はございません。ただ、お客様が大変素敵な男性だったのでつい」

女性は笑顔でそう言う。

また、吸い込まれそうになる。

この女性は本当に人間なのだろうか?

本当にメドゥーサでは無いだろうか?

そんな風に感じてしまう。

それほど、この女性は浮世離れしている。

「それはありがとうございます」

そう言って今度こそ店を出ようと思った。

これ以上、ここに居ると帰れなくなる気がした。

「では、これをお持ちください」

そう言って、袋に包まれた二つの小物を手渡した。

「これは?」

「それは彼女さんと一緒に開けてみてください」

そう言って深々とお辞儀をした。

「ありがとうございました。またのご来店、心よりお待ちしております」

そして女性は店の奥に入っていった。

俺は、袋に包まれた二つの小物を見ながら店を出た。

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