第5章 ~莉菜編~

20.白河家へ

朝から雪が降っている。

ちょうど一年前も朝から雪が降っていた。

私は制服に着替え、髪を後ろで結った。

着替え終えると部屋を出てリビングに行く。

リビングでは母が茉菜の髪を結っている。

「もう準備出来たの?」

母が鏡越しで私に聞く。

「うん」

私は鏡越しの茉菜を見た。

茉菜は黙って私を見ている。

あの日から少しずつ茉菜との距離が近くなった気がする。

そして今日もこうして一緒に明楽君の一回忌いっかいきに向かおうとしている。

「はい、これでいいわよ」

母が茉菜の髪を結い終えた。

「ありがとう」

母にそう言うと、茉菜は立ち上がり、振り向いて私をじっと見つめる。

「お姉ちゃん……大丈夫?」

まだ少しぎこちない態度だけど、その優しさは十分伝わってきた。

「うん。大丈夫よ」

私も少しぎこちないであろう笑顔でそう返した。

そして母が運転する車に乗り込み、白河家へと急いだ。

車内から見える町は白く染まっていた。

空から綿飴わたあめが降っているかのようにふわふわと目の前を舞い降りてくる。見慣れた町の風景が少し新鮮に感じる。

 

白河家の近くのコインパーキングに車を停めた。

車から降りると冬の寒さが肌に刺さる。

三人で歩いて白河家に向かうが、途中で母が車に忘れ物をしたということで取りに戻った。

私と茉菜は二人で白河家に向かう。

突然、茉菜が私の手を握る。

私はドキッとして茉菜を見ると

「ごめん……駄目だった?」

不安そうに言った。

「ううん。大丈夫」

私は茉菜の手を握り返した。

白河家が近づくにつれて私は足が竦んでくるのが分かった。

そんな私に気付いたのだろう。

茉菜が

「お姉ちゃん、大丈夫だから」

優しく私に声を掛けてくれる。


白河家に到着した。

インターホンを茉菜が押した。

中からブラックフォーマルの姿をした、女性が顔を出す。とても綺麗でかっこいい女性だと思った。

女性は私を見て困惑している様子だった。

「おばさん、こんにちは」

茉菜が女性にそう言うと、

「茉菜ちゃん来てくれたのね」

嬉しそうに茉菜に話しかける。

「姉です」

茉菜が私を紹介してくれた。

おばさんと呼ばれた女性はじっと私を見つめ、そしてそっと抱き寄せた。

困惑する私に

「ごめんなさいね。本当にごめんなさいね。あなたには、本当に辛い思いをさせてしまって」

とても優しく愛情が感じられた。

「いえ……私のほうこそ、本当に申し訳ございません」

涙が頬を伝う。

おばさんは私の顔をじっと見て、涙をハンカチで拭いてくれた。

「今日は来てくれてありがとう」

そう言って、家に招き入れてくれた。

「お母さんは?」

おばさんの問いに

「忘れ物を取りに車に戻りました。すぐに来ると思います」

茉菜が受け答えをしたその時、いきなり茉菜を抱きしめる若い女性が現れた。

少し驚いた。

「綾さん、痛い」

茉菜が綾と呼ぶ女性はゆっくりと私を見て、

「もしかして、莉菜ちゃん?」

私に聞いた。

「あ、はい。妹がいつもお世話になっています。それと明楽君のこと……本当に申し訳ございません」

心から謝った。

「あーあ、これは勝てないや」

よく分からないこと言われて

「え?あの……」

私は戸惑ってしまう。

「茉菜ちゃんが大好きって言うのも頷けるわ」

「ちょ、綾さん」

茉菜は慌てて綾さんと呼ぶ女性に口を挟む。

私は茉菜がここでどんなに良くして貰っているのかが分かった。

「綾、そんなことしてないで、早くお酒持って行って頂戴」

おばさんが綾さんに言った。

「はーい」

綾さんは嬉しそうに私たちを見ながらそう言った。

私たちは和室に通された。

和室には親戚であろう大人達が数名居た。

インターホンが鳴った。

おばさんが応対している。

「本日は、私たちまでお招き頂きありがとうございます」

母の声だ。

「いいえ、わざわざ来てくださってありがとうございます。さぁさぁどうぞ中にお入りください」

おばさんが丁寧に母に対応している。

母が和室に向かってくるのが分かる。

その時、聞きなれた声を耳にする。

「あ、どうも」

彼の声だ。

私は緊張した。

そうだ、彼が居るのだった。

そんな私に茉菜は気づき、笑顔で私の顔をのぞき込む。

今、茉菜とこうして距離を縮められたのは彼とあの子のおかげだった。

茉菜はあの日から少しづつ私に対する態度が昔に戻っていった。

そして、一ヶ月が過ぎようとした頃だろうか、茉菜と母に私の状況を話した。

私は目を閉じて、その時の事を鮮明に思い出す。

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