11.茉菜の傷

 白河家のリビングで叔母と綾さんそして俺が三人で座っている。

誰も、なにも話さない。

明楽は本当にとんでもないことをしてくれた。

この件に関わる全ての人を一人残らず不幸にしている。

叔母や綾さん。

そして、茉菜とその友達。

深い心の傷を負わせた。

明楽はどうしてそこまでする必要があったのだろうか?

そんなことを考えているとインターホンが鳴った。

叔母は静かに立ち上がり玄関に向かう。

来客が誰なのか分かっているみたいだった。

叔母と一緒に一人の女性が入ってきた。

とても綺麗な人だ。

どことなく目元が茉菜に似ている。

おそらく昼間にリビングで話していた茉菜の姉なんだろうと思った。

その女性は、俺たちに挨拶をしてからすぐに和室に向かった。

和室には茉菜が泣き疲れて寝ている。

叔母や綾さんは黙ってリビングに留まる。

俺も自然とそうした。


しばらくすると女性と茉菜がリビングにやってきた。

「本当に申し訳ございません」

女性は深々と頭を下げる。

「ごめんなさい」

茉菜も同様に頭を下げる。

叔母は笑顔で茉菜をそっと抱きしめた。

「悲しい思いをさせてしまってごめんね」

優しい口調で叔母が茉菜に言うと続けて

「また、来てくれる?」

そう聞いた。

「いいんですか?」

茉菜は申し訳なさそうに聞く。

「もちろん!いつでもいらっしゃい、おばさんね茉菜ちゃんが来てくれるの凄く楽しみにしているのよ」

茉菜の頬に両手を当て茉菜の瞳をじっと見つめながら笑顔で言う。

「う、う」

また泣きそうになる茉菜。

「ありがとうございます」

茉菜は涙声でそう言った。

「優菜さん、今日は本当にごめんなさいね」

叔母は女性にそう言うと

「いえ、こちらこそ、茉菜がご迷惑をかけてしまって」

「そんなこと無いわ」

笑顔でそう答える叔母。

そして、二人は帰ることになった。

俺たちは見送りの為に玄関を出て遠ざかる茉菜たちを見送った。

茉菜たちは振り返り、再び深々と頭を下げた。

「明楽のこと聞いたのね」

綾さんが俺に聞く。

「うん」

「どう思った?」

いつになく真剣な綾さん。

「はっきり言って、明楽は最低だと思う」

俺は叔母たちには申し訳ないが本気でそう思った。

「やっぱりそう思うよね」

綾さんは複雑な笑みを浮かべながらそう答えた。

そして、俺は茉菜の見てはいけないものについても尋ねてしまう。

「ねぇ綾さん」

「何?」

「茉菜ちゃんって……明楽のことで、変なことしてないよね?」

「……見たのね?」

「うん……」

「……京が思っていること……それ正解よ」

綾さんは少し悲しい顔をしてそう言った。

茉菜は死のうとしたのか……あの左手首の数か所の傷跡はリストカットの後ってことか……

俺はもう見えなくなった茉菜と茉菜の姉が歩いていった方角に目をやった。

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