07.想い人

俺はこれまでの経緯を話す。

夏休みの終わり、そう夏の終わりに俺は彼女を見かけた。

ドラマチックなことなんて何もない。

ただ、転入手続きで学校に行った帰りの電車で彼女を見かけたのだ。

彼女は黒髪のセミロング、大きめの瞳からは涙が流れていた。

その涙を見た瞬間から俺は彼女に心惹かれた。

彼女はあまりにもはかなく、目を離すと消えてしまいそうだった。

そんな彼女から、目が離せなくなっていた。

その夜は彼女のことが目に焼き付いて寝付けなかった。


夏休みも終わり、学校が始まる九月、俺は新しい学校ということもあり、早めの時間に学校に行くことにした。

そして、通学の電車内で彼女を見かけた。

相変わらず小柄で目を離せば消えてしまいそうな、そんな弱弱しい彼女を愛おしく思い、

毎日、同じ電車に乗ることが日課になってしまった。


孝太郎にあらかた話をした後、俺は今朝の出来事を思い出している。

いつも通りの電車に乗り、彼女が乗車する駅を心待ちにしていた。

電車が駅のホームに流れるように到着すると、ホームで電車を待っている彼女を見つけた。

彼女は電車に乗るときに、少し躊躇ためらっていた。

何せこの混み具合だからだろう。

そんな彼女の躊躇いなど、気に留めることもなく、彼女の後ろに並んでいた乗客は、彼女を押し込むように電車に乗り込んでくる。

後ろから押されるように乗車した彼女は、なんと俺の数センチの位置にいる。

後ろから押したやつ本当にグッジョブだ。

彼女を見ると鞄が人との間に挟まって取れないみたいだった。

通勤ラッシュの電車だからよくあることだけど。


必死で頑張っている彼女が愛おしと思い、思わず手を貸してしまった。

彼女の声を初めて聴いた。

今にも消えそうな儚い声だったけど透き通っていた気がする。

それから、十五分ほど電車に揺られた思うが……実際あまりそのあたりの時間は覚えていない。

一瞬に過ぎ去ったような気がしていたからだ。

とうとう、彼女が降車する駅に到着してしまった。

本当に、今日だけは、電車が遅れくれてもよかったのにと、本気で思っていたら、彼女は降りれなくておどおどして困っている。

俺は思わず降りると叫んでしまった。

そして勇気を出して彼女の手を掴んだ。

折れそうな細い手だった。


俺と彼女は電車から降りることに成功した。俺の心臓は、もう破裂寸前ではないか、と言わんばかりに激しく動いていた。

彼女は丁寧にお礼をしてくれた。

そして、俺に話しかけてくれた。

「清院の方ですよね」

と俺は恥ずかしくて返事をしたのかさえわからない。

俺は彼女から目が離せなくなっているのに気付いた。

すると彼女は困惑していた。

なんて馬鹿なことをしたんだろうか……

あの時の俺は、どうかしていたと思う。

そのあとの行動はあり得ないと自分でも思う。

どうして彼女の顔に自分の顔を近づけたんだろうか……

完全に避けられたよな……引いてたもん……

大きなため息を漏らした。

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