第2章 ~京編~
06.恋をする少年
はぁ、またこのやりとりをすることになるのか……はっきり言ってめんどくさい。
「私と付き合ってください」
放課後の校舎の片隅で、少女は頬を赤らめ、今にも零れ落ちそうな涙を必死で堪えた表情で思いを告げた。
「ごめん、君とは付き合えないだ」
自分で言うのも変だけど随分とあっさりとした口調で答えてしまった。
少女は震える声で食い下がる。
「好きな人でもいるんですか?」
ため息が零れる。
もう、うんざりだ。
私と付き合ってください。
ごめん、駄目なんだ。
こんなやりとりをこの数ヶ月で何回しただろうか……
最初の頃は、断るのにも気を使いながら断っていたが、最近では、もう気を使うこともなくなった。
はっきり言えば、面倒なのだ。
申し訳ないと思うが……少女に視線を向ける。
少女は長い髪を後ろで結っている。
小さめの顔は綺麗な白い肌をしている。
思春期特有の悩みであるニキビなどとは無縁なのだろうと思わせるほどだった。
少女の目には涙が溢れ出ている。
あーなるほど、この子は真剣に俺との交際を求めているだな、ここは少し気を使いながら丁重にお断りをしよう。
「好きな人っていうか、気になる子ならいる、だから君とは付き合えない。ごめん」
つい、本当のことを言ってしまった。
俺は基本的には誰にでも優しいと思う。
だけど、この場合はその優しさは逆効果だろうと思い、少女の前より立ち去った。
振り向くと、少女はその場で泣き崩れた。
「
立ち去った直後に声を掛けられ少し驚く。
「覗き見なんて趣味悪いぞ。
俺は孝太郎にそう言った。
孝太郎は、黒い短髪で、日に焼けた引き締まった体。
少したれ目だが、顔のパーツ一つ一つバランスよく収まっている。
身長は俺と同じか少し低いぐらいだった。
俺と孝太郎、二人が並ぶと絵になるとよく言われる。
俺たちは校門に向かって歩いている。
「あーあ、結構可愛かったのに、もったいない」
孝太郎は意地の悪そうな口調で言いながら俺をじっと見つめている。
「可愛いとか可愛くないとかそんな問題じゃないと思うんだけど」
俺はまじめに答える。
「なんだよそれ?じゃあどういう問題?」
孝太郎がつかっかる。
少し驚いた。
孝太郎は何を言っているだ。
そんなこと決まっているのに。
「好きだから付き合う。好きじゃないから付き合わない、ただそれだけのことだろう」
孝太郎は笑みを浮かべた。
「ところでさ、気になる子って誰?」
孝太郎はさっきの告白の答えで、俺が言ったセリフが気になったのだろう。
「さぁ」
とだけ答えた。
しばらく俺を眺めていた孝太郎は確認する。
「教えられないってこと?」
別に隠しているわけではないのだが、孝太郎に向き合って
「いや、そうじゃなくて、連絡先も知らないし、名前すら知らない」
となるべく無表情で言ってみた。
「なんだよそれ?」
笑いながら孝太郎は言う。
少し考えてから、孝太郎には打ち明けておこうと思った。
俺は真剣な眼差しで孝太郎に質問をした。
「孝太郎、その……孝太郎は一目惚れって信じるか?」
少し恥ずかしいなこれ。
「何?お前?一目惚れしたの?」
驚いた表情で孝太郎は聞き返す。
「そうみたいだ」
少し照れながら答える。
「どんな子なんだ?」
孝太郎は嬉しそうに聞く。
「だから、連絡先も名前も知らないだ」
彼女の姿を思い出す。胸が苦しい。
「お前なら、簡単に聞き出せるだろう?」
孝太郎は不思議そうに聞き返す。
「いや、なかなか難しいよ……だっていきなり名前や、ましてや連絡先とか聞くの変だろ?」
「確かにそうだけど、お前なら大丈夫だと思うけどな」
孝太郎は真剣に答えた。
「はぁー無理だよ……変なやつって思われるだろう……」
顔を両手で抑えてため息交じりに言う。
「いつから?」
「こっちに来て直ぐ」
もじもじしながら答える。
「夏ぐらいか?」
「そう」
相変わらずもじもじしている。
「一から詳しく聞こうではないか」
孝太郎は興味津々な表情で言った。
俺は恥じらいながらも想い人のことを話し始めた。
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