04.クレアーレ
最寄りの駅よりも海が近い駅の二階からは夕陽が海に沈む様子がうかがえる。
私はこの景色が一番好きだ。
夕陽と海、二つの大自然が織りなす壮大な芸術。私の悩みなど小さすぎると錯覚させられる。
夕陽に染まる駅のホーム。
私は下りの電車をホームで待っていた。
やがて、電車がホームに到着する。
車内はまばらに座れる程度の混み具合だった。
私は扉のすぐそばに立ち窓から見える町並みを眺めている。
お店やマンション、公園などが目の前を流れていく。
ふと後ろから声が聞こえた。
振り返り声の方に視線を向けた。
そこには二人の女子高生が話している。
制服から見てこの辺りでは偏差値の高い清院学院だとすぐわかった。
そういえば、朝に私を助けてくれた彼も清院だったなっと思った。
女子高生の話に自然と耳を傾ける。
「
「うん、うん」
「
「二人並ぶと本当凄いよね」
どうやら、かっこいい先輩の話で盛り上がっているようだ。
「そうそう、藤田先輩って帰国子女なんだって」
「彼女とかいるのかな?」
私は話を聞くのをやめて窓の外に視線を移した。
私にはそんな話ができる友達がいない。
花楓とはそんな話をすることはないし。
それに……私はその手の話をできるだけ避けていきたいと少なからずそう思っている。
痛ぅ、突然、目に痛みを覚えた。
鞄からコンパクトミラーを取り出して目の辺りを見た。
左目にほこりがついたようだった。
ほこりを払い、ふと後ろに映る女子高生に目をやった。
まだ楽しそうに話している。
そして、自分自身をもう一度見た。
その時、立ち眩みのようなめまいを一瞬感じた。
電車が駅に着き私が立っている側の扉が開いた。
出来るだけ端によりながら、何か違和感を感じた。
扉が閉まり、電車が動き出す。
周囲を見渡した。
そこには、いつもと変わらない電車内の光景だった。
ただ、先ほどまで楽し気に話していた女子高生はもういなかった。
さっきの駅で降りたのだろう。
電車から降り、駅を出ると目の前の商店街は夕食の買い物をする主婦や、学校帰りの学生達で賑わっている。
商店街を歩いて帰っていると、見慣れない一つの店を見つけた。
『クレアーレ』と書かれたアンティーク系のお店?よく分からないが、初めて見る店だった。
毎日のように、この商店街を抜けて駅に通っているのに今まで気づかなかった。
私は気になって、そのお店に足を踏み入れる。
店の中は少し薄暗くこじんまりとしていて、よく分からない壺や、派手な装飾がされた食器などが、綺麗に整理され並べられていた。
奥から若い女性が顔を出した。
少し驚いた。
なんとなくだけど、こういうお店っておじいさんやおばあさんといったご年配の方がやっているイメージがあったからだ。
私は自然とその女性を見つめる。
女性はウェーブのかかった少し色素の薄い長い髪を後ろで結んでいる。
顔は小顔で整っている。
口元にあるほくろがなんとも艶っぽい。
薄暗い店内の照明が左耳に付けた小さめのピアスを青く光らせる。
水晶のような大きな瞳に見つめら、胸の鼓動が少し早まった。
全てを見透かされてしまいそうな少し冷酷さを感じさせた。
その女性を見ていると、言葉では言い表せない気持ちになる。
「いらっしゃいませ」
女性の澄んだ声が、静寂だった店の中に響き渡る。
私は、ハッと我に返った。
女性の口元が少し緩んだ。
「何か、お探しですか?」
女性の問いに焦ってしまう。
別に何も購入するつもりはない。
ただ、見慣れない店だったから、足を踏み入れただけだった。
困惑する私の様子を見て、女性は優しい笑顔を見せた。
「ゆっくりしていってください」
なんか凄く恥ずかしかった。
女性が立っている左奥に棚があった。
そこには本類が並べられている。
私はその棚に向かった。
棚には英語やフランス語、中国漢字といった様々な文字のタイトルが一式並んでいた。
中には、これ何語なの?といった見たこともない文字まであった。そんな中にあったからだろう、日本語タイトルの本が、際立っている。
私はその本を手に取った。
タイトルは『
はっきり言って、まったく興味を持てない。
だけど、何も購入せず帰るのは、すごく気まずい気がした。
値段を見ようと思ったが、どこにも値札がなかった。
もちろん、バーコードなんてものもない。
「あの……これは」
私は値段を聞こうと、女性に話しかけた。
「あ、それでしたら、お持ち帰りください。お代は結構ですから」
女性は、私の手に持っていた本を見て笑顔でそう答えた。
えーと、この場合はお礼を言ってこのまま店を出ても良いってことかな?
少し考えてから、
「ありがとうございます」
そう言って出口に向かうと
「あ、少しお待ちください。包みますから」
女性は親切にそう言ってくれた。
私はお言葉に甘えることにした。
包み終わると女性は笑顔で
「ありがとうざいました。またお待ちしています」と言った。
私はお礼を言って店を出る。
この世ではない世界に足を踏み入れてしまったのではないかと思うぐらい不思議な店だった。
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