第1章 ~莉菜編~
01.異変
目の前が白く
うっすらと目を開けるとカーテンの隙間から漏れる光が私を照らしている。
その光を避けるように私は横に寝がえる。
壁に掛かった時計がカチカチと音を鳴らす。窓の外からは小鳥の鳴き声が聞こえてくる。ゆっくりと意識が覚醒していく。
私は上半身を起こした。
まだ開ききっていない目で部屋を見渡す。
窓の前に置かれた机、壁にかかった時計、そして見慣れた制服。
一通り見渡してから、まだ温かいベッドから起き上がり、部屋におかれた
肩にかかるほどの黒い髪が寝ぐせで所々はねている。
鏡に映った大きめ瞳が自分を見ている。
その時、一瞬だが立ち眩みのようなものを感じ目を閉じた。
まだ寝ぼけているようだ。と思いながらゆっくりと目を開ける。
何か違和感を感じた。
私は少し緊張した面持ちでゆっくりと、部屋を見渡した。
いつもの部屋だった。
部屋にあるすべてが自分の部屋だと証明している。
でもなぜか違和感を感じた。
勘違いだと顔を横に振って、鏡を見ながら寝ぐせではねた髪をブラシでとかし始めた。
その時、私を呼ぶ声が聞こえた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、起きて朝だよ」
明るく少し高めの可愛らしい声を。
ピタリと動きが止まる。鼓動が早くなるのを感じながら、もう一度鏡を見た。
何かに怯えるような顔がそこには映し出されている。
これは夢?
試しに自分の頬をつねってみる。
痛みがはっきりと伝わる。
あれ?夢でも痛みがあるんだ……そんなことを思っていると、扉が開いた。
「もう、お姉ちゃん……あれ?起きてるじゃん」
開いた扉の前に少女が立っていた。
黒くて長い髪を横で結び、年齢の割には幼く見える。
口元のほくろがチャームポイントですと言わんばかりに可愛い。
制服姿の妹の茉菜がそこに立っている。
「お姉ちゃんどうしたの?」
茉菜は不思議そうな表情で私に尋ねる。
「茉菜……」
つい、妹の名前を呼んだ。
「うん?どうしたの?お姉ちゃん大丈夫?」
茉菜の表情が今度は心配している様子に変わる。
「うん……大丈夫よ……」
頭が混乱している。
「大丈夫ならいいけど、支度しないと学校遅れるよ。私先に出るからね」
茉菜はそう言うと扉を閉め階段を下りて行った。
部屋に一人立ち尽くして何が起きているのかを必死で考えた。
結論は、これはやっぱり夢なんだと。
大体、妹がこの制服を着ていること自体がおかしい。
制服を手に取り、そんなことを考えながら着替えた。
リビングに入ると、見知らぬ声が聞こえた。
「お、
そこには見知らぬ男性がダイニングテーブルの椅子に座っている。
私は驚いて、再び動きが止まった。
なんだろう?さっきから動いたり止まったりと、まるでぜんまい仕掛けの人形のようだ。
「え?誰?」
思わず声に出して言ってしまった。
「おいおい、誰って?莉菜大丈夫か?寝ぼけているのか?」
男性は不思議そうに言う。
改めて男性をじっと観察した。
髪の長さは前髪が目にかかる程度の長さで、少し茶色掛かっている。
男性にしては小顔でとても整った顔をしている。椅子に座っているからはっきりと身長はわからないが、おそらく180ぐらいはあるだろう。
「あら、莉菜起きたの」
後ろから話しかけられ、振り向くとそこには母の
母の優菜は娘の私が言うのも変だが、とても美人だと思う。
とても、高校生の娘が二人いるとは思えないくらい若々しくスタイルもいい。
悔しいが私たち娘よりもいい。
そして誰よりも優しい。
こんな私にもいつも優しい言葉を掛けてくれて、気遣ってくれる。一年前のあの時も。
一時期、私の憧れでもあった。
今でもあの優しさは本物だと思うのだが、いつの日からか何か腫れ物に触れるかのような感じで接するようになった。
本人はそんなつもりがないのは私にもわかる……はずなんだけど……それ以来、私は母との間にも壁を作ってしまった。
そんな母が今、昔の母のように私に接している。
たとえこれが夢であってもうれしくてたまらない。
今すぐにでも母に抱きつきたかった。
「莉菜、何呆けてるの?早く、朝ごはん済ませない。あと、
母は私と男性を交互に見ながらそう言った。
「優斗?」
首をかしげ、男性を見ながらそう言うと
「お、やっと起きたのか」
笑顔で男性は答える。
私は必至で優斗と言う名前を考えた。
今まで生きてきて出会ったことがあるから夢に出てきたのであろうと考えるが……分からない……優斗って誰?どうして家にいるの?あなたは一体誰ですか?
困惑している私を見て男性は
「母さん!莉菜の様子がおかしいだけど」
……母さん!?どういうこと?なぜあなたが母を母さんと呼ぶの?私の姉妹は妹の茉菜だけよ……
「どうしたの?莉菜?どこか具合が悪いの?病院行く?」
立ってられなくなってきた。
私の処理能力が追い付かない……夢の中ですら、私は私なんだと思い知らせる。
そして、全身の力がふぅと消えるようにその場で崩れ落ちた。
「莉菜!莉菜!」
私を呼ぶ母と兄らしき男性の優斗の声が遠のいていく。
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