裏道女

「行ってきます。」


私は誰に言うでもなく、独り言のように何もない空間に語りかける。

長い夏休みがあけ、私は学校に登校する。久しぶりの学校でとても楽しみだ。


玄関を出ると直ぐに回れ左をして回り込む。久々に触った裏口の扉は、

まるで挨拶をするようにキリキリと音を立てながら私を山道(さんどう)へと案内してくれる。


表の玄関からもアスファルト道路を伝って学校に行けるけれど、私はいつもこの山道を使う。

この山道は坂が急で階段や柵もなく、その代わりに虫や蛇が沸いて出てくる。

表の人工的な道と対照的だ。でもこっち方が学校に早く着けるし、季節によって装いが変わって楽しい。

私の住んでいる地域は田舎で坂が多く、学校は長い長い坂道の中央に建てられている。


正面玄関から学校まで歩く場合は大変だ。

家の目の前にある長い坂を1番下まで降り、学校までまた長い長い坂を登らなくてはならない。

努力坂と呼ばれるその坂を、朝から登る気にはとてもなれない。山道はすこし下れば済むからよっぽど楽だ。


夏休みの間は使わなかったこの道。

夏休み前と変わらず、まだまだ暑くて蝉が鳴き、こもった湿気が私に汗をかかせる。


最後だけについている、丸太の階段を降りれば…

ほら、もう一般道まで出れた。平坦な道を少し歩けば学校の裏門だ。

裏から出て、裏から入る。これが私の通学路。



裏門の目の前には学生寮がある。

主に運動部で県外から来ている人達の寮だ。


私は同じクラスで陸上部の朝倉君の部屋を見つめる。


久々に見れて少し嬉しい。

私は寮に住んでいる朝倉君の部屋を見る事が、平日の日課になっている。

好きな人の生活の一部を見れた気がして、いけない気持ちになる。


見れた事に満足しても油断は禁物だ。誰にも見つからないように後方に小走りする。

裏門がある場所から、一つ離れた角で顔だけを少し出す。

これも1ヶ月半ぶりだ。顔に垂れている汗をハンカチで拭って、遠くが見えるように目を凝らす。



五分後、彼が見える。

朝倉君だ。


陸上部の朝練を終え、寮に戻るためにグラウンドから裏門に向かっている。

私も歩き出し、裏門へ向かう。

夏休み期間中は朝倉君は実家に帰っていて、久々に会う。

少し焼けたかな。

久々に彼を見て心臓が高鳴る。


朝倉君との距離が近くなり、私は目を見て笑顔で挨拶する。


「おはよう」


「あ、高木さんおはよう」


1ヶ月半ぶりに日課の挨拶が出来た。

横を通り過ぎると、砂と洗剤と汗の臭いがした。

朝倉君の匂いを毎日嗅ぐと落ち着く。


朝倉君の周りにいた人達の声はあまり聞こえなかった。


かっこいいなぁ…

いつもニコニコしている朝倉君が見れて、今日も1日頑張るパワーが貰えた。

また今日から学校が始まるって思えた。


今日はどれだろう?赤かな?



学校では同じく実家が遠い友達と、1ヶ月半ぶりに会った。


「しおりんひさびさー まーしょっちゅうラインしてたけどさ」


「そうだねー なんか久しぶりな気がしないねー

 うわっなっちゃんも焼けたねー」


「あたしも? …あー」


しまった。不敵に笑ったなつみが振り向いて後ろの席を見る。


「朝倉君も焼けたよねー」


「もーちょっと!」


なつみの服を引っ張って視線を外させる。

…この手の話題は苦手だ


「ずっと見てるのバレバレなんだし、告白でもすればいいのに」


「そんなんじゃないから!」


「いつ彼女が出来るか分からないんだし、さっさと近付いて仲良くなりなよ」


「だから…そんなんじゃないって」


「ごめんってば

 しおりんがそう言うなら、そう言う事にしてあげる」


朝倉君に興味がないと言えば嘘になる

好きかと言われたら…そうなのかもしれない

付き合いたいかと言えば…少し疑問だ


私は朝倉君の秘密を知っている。

これだけで今の私は充分満足なのだ。

それだけで他の女子より一歩先に進んでいる気がしてる


きっと今日は赤だ



夏休み明けで授業もほとんどなく、直ぐに帰れた。

裏門を再び通り、寮の前で立ち止まる。


やっぱり今日は赤だった


朝倉君の部屋の外には洗濯物が干してあり、朝にはあった赤いものが消えている。

今日の朝倉君の下着は赤いボクサーパンツで正解


朝練で汗をかいて一度服を着替えるのだろう。

行きと帰りではシャツと下着が減っている。

気がついてからは毎日、朝倉君の下着を想像するようになった。

こんな下着を履いて授業を受けて、ご飯を食べて、友達と喋って、放課後は部活をする。


ほとんどの人は表から登校する方が通学時間は短い

寮に住む男子か、私みたいな裏山方面に住んでるほんの少しの人しか裏口から登校しない。


朝倉君の下着を知っている女子は私だけ

独占欲にも似た感情が私を満足させる。


風が吹いた。

畑の砂が少し舞い、朝倉君の干してた下着が1枚、紙飛行機のように私めがけて飛んでくる。


「えっ」


毎日見てるだけだった、独占欲の象徴が、私の目の前にやってきた。


「あっあっあっ、うわっとと…」


考えるよりも早く、その黒い色をした独占欲を、両手で掴んでしまった

朝倉君の下着だ…

触れてはならない領域を犯してしまい、私はイケナイコトと思いつつも…高揚した。


両の手で掴んだそれを、まじまじと見つめる。

数秒遅れて、ハッと、周りを見渡す。


この時間は、帰宅部の私以外、通らないのは知っていたけれど、

万が一見られたら…恥ずかしさで学校に行けなくなる。

民家方面には…いない

学校には…運動部が見えるけれど、この距離なら、ハンカチ程度に見えるだろう

問題ない事を確認したら、素早く畳んで、バッグに収納する。


バッグの中身なんて、誰も見ないハズなのに、

誰かに見つからないように、急いで、山道入り口の階段を駆け上がる。


早く持ち帰って、眺めたい。

早足で、山道を駆け上がる。



急いで裏口を開けると、キィーと、いつもと違う甲高い鳴き声が、耳に刺さる。

まるで、私の心臓の高鳴りが、音として現れたようだ

誰かに見つからないように、玄関を静かに開けると


「あら、おかえり」


しまった、いつも通りにしないと怪しまれる


「お、お母さん、ただいまっ」


小走りで洗面所に向かって、手を洗う

早く触りたい。でも、いつも通りに振る舞わないと…


それに、綺麗な手で、彼を触りたい。

お預けをくらった犬の気持ちだ。


「しおり、あんた、今日は学校から、何か連絡とかなかった?」


「初日だし、何にもないよ ないない」


タオルをはたきながら、適当に答える。

はやく、はやく触りたい。



母を押しのけて、自分の部屋に転がり込む

鍵をかけて、自分と彼だけの空間を作り出す。

いざ、お膳立てられると、興奮で手が震えて、バッグのチャックが開かない。


苦労して取り出した、欲望のソレは、下着ではなく、彼の一部だと感じた。

まじまじと見つめ、なんとなく、掴む場所を何度か変える。

誰に見られる訳でもないのに、肌に擦り付けるのが、戸惑われた。

恥ずかしさで、顔が熱くなるのを感じる。


意を決して鼻をくっ付ける。

…いつも嗅いでる、朝倉くんの匂いだ

洗剤の香りだと分かっているものの、柔らかくて、

赤ちゃんみたいな優しいそれは、朝倉くんの匂いで間違いない。


すーはー


吸えば、朝倉くんが入っていき、吐けば、それ以外が私から出て行く

深く呼吸をすると、彼が、体に満たされていく気がした。


「朝倉くん…朝倉くん…」


声に出すと、より一層愛おしくなる。

目を閉じると、朝倉くんの胸に抱きついている、私がいた。


「キス…しよっか…」


色欲に塗れた、汚らわしい音を出したその口を、綺麗な彼に口付ける。

彼を汚してしまった、その官能的な感覚が、より一層私を興奮させる。


「朝倉くん…好き…好きっ…!」


咎めるものがいないと、私はこんなにもいやらしく、だらしがないのか。

でもきっと、彼が、彼でいられるのも、長くはないだろう。

日にちがたてば、彼の香気がなくなって、ただの下着になってしまう。

彼であるうちに、もっと私のものにしておきたい。


「そうだ…食べよう」


そう考えるのは自然な事だった。

乱暴に、机の引き出しを開け、はさみを取り出す。

姦するために、彼に二つの刃が襲いかかる。


「…あれ?」


本来の用途でないためのか、上手く切断出来ない


「んっんっ んーー!」


駄目だ

刃の合間に、布が飲まれるだけで、一向に裂けてはくれない。



ほんの数瞬迷ったが、意を決して、山道を再び降り出す

裁ち鋏を、買いに行こう。


家の裁ち鋏は、もしお母さんに見られた時の、言い訳が思いつかないし、

錆で、彼を汚してしまう事を考えたら、耐えられなかった。

あんな、ただの普通な鋏で、彼を杜撰に扱おうとした事を、深く反省した


最後の階段を降りたら、乱れた呼吸を落ち着けるために、歩きながら雑貨屋を目指す。



雑貨屋では、色んな形や色があったけれど、黒くて大きい鋏を選んだ

パステルカラーの小さい鋏は、女のイメージ。

例え鋏でも、私以外の女に、彼を触らせたくない。

この黒くて大きい鋏は、朝倉くんみたいだ



購入して家に戻ったら、車がなかった。

チャンスだ。お母さんは、買い物に行ってるかもしれない。

ここの坂を、車で登るには時間がかかる。

誰にも見つからない、自由な時間が確保された。


台所に向かうと、買ってきた鋏の封を切る。

パッケージは、見つからないように、ゴミ箱の中に深く押し込んだ。

スポンジに洗剤を染み込ませたら、鋏を入念に洗う

何度も濯いでやったら、軽くコンロで炙って、刃にサラダ油を塗布する


焦って、本来の目的を忘れちゃ駄目だ

朝倉くんの下着から、彼の匂いがしている、綺麗な状態で私と一緒になる。

そのためにも、これは大事な下準備なんだ。

薄い布で綺麗に油を伸ばし、拭き取る。


父が工場(こうば)の人で良かった。

この手の知識を多少なりとも覚えてて良かった。


部屋に戻って、再び鍵をかける。ドキドキして、手が震える。

心臓の音に合わせて、ピクンピクンと、腕が揺れる。


とんでもなく緊張してるな…

彼以外、誰も見ていないのに…少しだけ呆れる。


下着に鋏を通して…綺麗に切れたモーゼの如く、布が左右に裂ける。

彼の私物に刃を通す。この非日常が、私を不思議な気持ちにさせてくれる。

1cm角に切り、まずは一口。


「んむ」


…たまらない

朝倉君のほんの一部でも、私のものになった気がして、独占欲が満たされる。


彼の下着を知る女子は私だけ。

彼の下着を手に入れたのは私だけ。

彼の下着を自分だけの物に出来るのは、私だけ。


口に入れて、少しだけ水分を奪われる。濡れる。

彼が、私を求めたように感じて、幸せだ。


いけない気分になりながら、一口、一口、彼を切っては、口に運ぶ。




「あれ、ふりかけなんて持ってきて、珍しい しおりんって、ふりかけ派だっけ?」


「ん、ちょっと気分的に」


「へー、あたしにもちょーだい」


「だ、だめ! …なっちゃんの口には合わないと思う」


「えーケチー! オカズあげるからさー」


「だ、だめ!」


「まーそう言うなら…」


しまった、怪しまれたかなぁ…

昨日は結局、下着は半分しか食べられなかった

夕ご飯も残しちゃうし、自分の少食ぶりを嘆いた

彼の色香が残ったまま、全部食べても良かったけれど、

せっかくなら、残り半分は毎日味わおうと思った。


下着を、細かく刻んで炒めたふりかけだ。

もし、なつみに食べられでもしたら、バレて引かれる。


「あれ、今日は…箸が、いつもと違うね」


「あ、気付いた? 実は、弟の弁当と、間違えて持ってきちゃってて…」


「そうなんだ いつも可愛いお箸だったから、なんでかなって」


「よく見てるねー」


「まぁね!」


「朝倉くんをずっと見てるのも、バレバレだよ」


「…もうっ!」


恥ずかしい…

そんなに見てたかな。

でも、朝倉くんの背中を見ながら、ご飯と一緒に食べる下着は最高だった。

朝倉くんは、弁当をつつきながら、友達と楽しそうにお喋りをしている。


今日は黒かな。



今日も帰りは、寮の前を通る。

残念、紺色だった


今日も欲しいな…

あの時の幸福感が忘れられない。


「もう1枚なら、大丈夫かな…」


朝倉くんの部屋は一階だから、すこし歩けば欲しいものが手に届く。


「しおりん、何してるのー?」


剥き出しだった本能が、危機感に止められる。


「な、なっちゃん! 何でもないよ!」


「何でもないって? あー…

 好きな男の家とか、部屋を見たくなるのは分かるけれど…本当にわかりやすいなー」


「なになになに! そ、それよりもどうしたの!」


「え、夏休み以来だし、しおりんの家に遊びに行こうかなーって」


「あ、あぁ…いいよ」


「本当!?やった 早く行こ

 常々思うんだけどさ、毎日あの山登るの、大変じゃない?」


「こっちの方が早いし、慣れたら楽だよー」


「へー」


…少しだけ、恥ずかしかった

下着の事はきっと、バレてない。



あれから3ヶ月が経ち、私は幸せだ。

今日もふりかけが美味しい。

口に運べば、布の独特の風味と食感を感じる。


朝倉くんの、履いている下着を想像しながら食べるふりかけは最高だ。

初めは少しだけ、飲み込むのが大変だったけれど、

今はなんとなく、コツが分かって、食べるのが楽しくなった。


これを難なく食べられる女は、ほとんどいないだろう。

食べるための努力が、彼に愛情を注げた事の証明になる。

朝倉くんを愛してるから、下着が食べられるようになった。


もう一度、ご飯とふりかけを口に運ぶ。口内が、彼を飲み込むために沢山濡れる。

今日こそきっと、紺色だ


放課後、いつものように寮に向かう。

周りを確認し、素早く敷地内へ


朝倉くんの洗濯物が、目の前にある。今日は、紺色が正解で少し嬉しい。

初めては彼からだったけれど、今では、私から彼を迎えに行く。

カバンからジップロックを取り出し、新品の下着を取り出す。


朝倉君の履いていた下着と同じ物を、誰も来ないような辺鄙な衣料品店で買ってきた。

2枚交換する。


彼が手に入り、思わずにやける。初めは下着を買うのも、こっそりと敷地内に入るのも、凄く恥ずかしかった。

あの時は悪いことをしているようで、ドキドキしてた。


今も、心臓が高鳴ってるけれど、彼が手に入る高揚感の方が勝ってる。

全部交換すると、全て楽しむ間に新鮮さが失われる。

何度も来ると、見つかる危険性があるし、日課になって高揚感が減る。


月に一度、2枚だけ交換するようにした。これで、3回目だ。


新しい彼を、ジップロックに閉じ込める。今度はどう料理しようかな。

明日の休日の予定を考えるのが楽しい。


煮物はよく出汁を吸ってて、求めたら答えてくれているようで嬉しかった。

揚げて炒飯に混ぜるのも、新しい食感を感じられた。


駆け足で山道を登る。

家に帰ったら、儀式のように手を綺麗にして、鋏も清潔にさせる。

初日は部屋で彼を細かく刻んで生で食べる。

食べるのは好きだし、愛おしい。

愛おしい…けれど


初めての時の幸福感を、感じられなくなってるのも薄々感じていた。

初めてのあの感覚を忘れられない。

もう一度、あの感覚を味わいたくて下着を食べる。

初めての時のような、心の高鳴りがもう一度欲しかった。

まるで麻薬だ。


少しだけ食べたら、彼をジップロックに戻す。

なにかないかな…

焦りが、私の味覚を鈍くさせないうちに、何とかしたい…




休み明けの放課後、私は図書館にいた。

奥の窓際の目立たない席で、適当に本を読むふりをする。

私は、開いた本の上の、何もない空間を見ていた。


適当に開いたページの文字が視界の端に映り、意識せずとも文字が脳内で再生される。部分的に切り取られたその文字列を読むだけでも、本の奇妙な面白さを感じた。

後で借りて、読んでみようかな…


飴を舐めながら、そんな事を考えた。


この日は、生徒会が二階の空き教室で会議をする。

その会議には、朝倉くんも出席してる。

本を読むふりをして、窓二枚を隔てた先の彼を見つめる。


図書館のこの位置なら、目立たずにずっと観察できる。

飴が溶けて、布の感触が舌に届く。

今日は黒かな。


友達と喋ってる朝倉くんは、いつもニコニコしていて優しそうだし、

部活している朝倉くんは、かっこいい。

今も、真面目に仕事をしていて、朝倉くんの誠実な人柄がよく分かる。

こんな素敵な人の、下着を汚している背徳感と幸福感、そして私だけの独占欲。

様々な欲が混ざり合い、色情として私を感じさせてくれる。

彼を感じるまで焦らされる飴にして、正解だった。


下着を交換する方法にして良かった。

朝倉くんを悲しませる事なく、汚す事が出来る。


…交換する?


何で私は気がつかなかったんだろう。

私は、席を立って図書館を出る。

朝倉くんを見続けたかったけれど、それよりも魅力的な事が見つかった。


小走りで職員室まで移動し、自分の教室の鍵を手に入れる。

今なら、教室には誰もいない。

鍵を使って、誰もいない教室に入る。


「やっぱり…」


朝倉くんの机に、鞄がかけてあった。

会議の時に鞄が無かったから、もしかしたらと思ったら、当たってた。

一度、教室に戻る用事もあるから、置きっ放しにしてたのかな。


「ふふふ…もぅ…不用心だなぁ」


鞄を漁ると、下着のように柄のない布で覆われた弁当箱が入っていた。

何で今まで、下着だけに囚われていたんだろう。

なつみが、弟の箸を間違えて持って来ていた事を思い出す

他にも、何かないか探してみる


流石に財布は無かった。そう言えば、チェーンで腰に繋いでたっけ…


「丁度これが良さそう…弁当箱にしよう」


両手で持って、色んな角度で観察する。

せっかくなので、朝倉くんの席に座り、包みを剥がす。

朝倉くんが、毎日使っている弁当箱だ。


箸を手に取る。

朝倉くんが、毎日使って…口に触れている箸。

なんとなく、周りを確認する。当たり前だけど、誰もいない。


朝倉くんの席で、朝倉くんの食事をトレースする。

今私は、朝倉くんと同じことをしている。

箸が舌の先に触れる。初めて下着を手に入れた時と、同じ興奮が私を襲う。


「…よかったぁ 私は、下着以外にも欲情出来るんだ。」


朝倉くんの下着じゃなくて、朝倉くん自身が好きなんだ。

何故か嬉しくなって涙が出てきた


「良かった…良かった…私は朝倉くんが好きであってた」


ひとしきり泣いた後、机にこぼした涙をハンカチで拭く。

もう一度味わいたい…私は箸を持ち直す。


「ひゃっ!」


誰かが入ってきた。興奮していた私は、つい鍵を閉めるのを忘れてた


「あっ…やっぱり…」


「な、なななっちゃん!」


朝倉くんの席に座り、左手に箸を持っている姿を見られてしまった

どう言い訳しよう…突然の事で、頭が働かない。


「あ、あのこれは、その、あのね」


「本当に、わかりやすいなぁ…いいよいいよ、気にしないで」


「な、なになになになに!」


「私は…中野くんなの」


「あっ…」


なつみは、鞄から箸入れを取り出した

こんな事してるのって、私だけじゃ無かったんだ…

私の独占欲って、対した事なかったんだな…

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