雪の降る夜は(たのしいペチカ)
#1
雪のふる夜はたのしいペチカ
ペチカ燃えろよお話しましょ
むかしむかしよ
燃えろよ、ペチカ
雪のふる夜はたのしいペチカ
ペチカ燃えろよお話しましょ
火の粉パチパチ、
はねろよペチカ
(山田耕作/北原白秋 ペチカ)
下の子の保育園では、もうすぐお遊戯会が開かれる。
彼のひよこ組では、「ペチカ」を振りつきで歌うことになっているようだ。
園から、CD-Rに焼かれた音源と、振りが書かれたプリントが配布されている。
夜、夕飯が終わるとさほ子は息子と「ペチカ」の踊りの練習をした。
しかし、いまの時代にペチカ(ロシア風暖炉)の意味がわかるのものか? 両手を頭の脇に挙げ、指をそれぞれ天に向けてくるくる回しながら、「ゆきのふるよは…」と踊る息子を見ながら、彼女はいぶかしんだ。
理解に苦しむことはいくつもある。
子どもたちを寝かしつけてから、さほ子は風呂に入る。
夫は今夜も遅いようだ。ウィークデイの間、子どもたちが夜に夫と会話することはほとんどない。考えてみれば淋しい話だ。自分達の、おそらくは標準より上に位置する生活水準を維持するため、仕方のないことだとはいえ、日々の暮らしの中で父親の存在の薄さは、何事にも替えがたい欠損だ、と思う。
それを当然と考える夫の、想像力の欠如も彼女の理解に苦しむ点だ。
ぬるめの、水量の少ない風呂にゆっくりとつかりながら、理解に苦しむことについてさほ子は考える。
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