寒山時
#1
君がみ胸に 抱かれて聞くは
夢の船唄 鳥の唄
水の
惜しむか柳が すすり泣く
花をうかべて 流れる水の
明日のゆくえは 知らねども
こよい
消えてくれるな いつまでも
髪に飾ろか
君が
涙ぐむよな おぼろの月に
鐘が鳴ります
(蘇州夜曲 / 作詞:西条八十 作曲:服部良一)
午後、昼間の光のなかでするセックスは、とてもいやらしく、激しい。
さほ子はいつもそう思う。
夜、オレンジ色の豆電球の下でするのとは、ずいぶん趣きが違う、と。
新市街の港を見下ろす、香港資本の高級ホテル。27階からの、火曜日の午後の港。メイルをもらったその部屋で待っていると、時間通りにチャイムが鳴った。
さほ子はソファから立ちあがり、鍵を開けてあの人を迎え入れる。
ひさしぶり、も、元気だった、もなく。
そういうのを言ってしまうと、いまから濃密なセックスをするのだ、という澄んだ気持ちに邪魔が入る気がして。
何も言わずにあの人の手を引いて、ベッドサイドに立ってもらう。自分は彼の前に
それからゆっくりと舌先で先端をねぶり、唇ですいつき、歯で甘噛みする。あの人のペニスはやがて、とても硬くそして大きく勃起する。
すると彼女は彼に尻を突き出して、スカートをたくし上げ、自分の股間をさらす。
お部屋に入ってすぐにショーツは脱いでおいたから、むき出しの性器が彼に見えているはず。フェラチオをするだけで、すでに十分に潤っていた性器から、愛液がこぼれ落ちそうな気がする。
彼は魔法にかけられたように彼女の甘くとろけた場所に、深くゆっくりとペニスを沈めてくれる。股間が痺れるように強い快感が走って、彼女はひとりでに腰を動かし、彼を膣の一番奥まで取り込む。
これでいいのだ、と彼女は思う。いつものように。
こうしないと、どうしても気持ちが収まらない。まずはこうして、強く強く彼を受け入れる。それで会えなかった時間を埋めないと、
最初のあわただしくもいやらしいセックスが終わって、ふたりでシャワーを浴び、ベッドに戻る前に彼女は携帯をチェックする。二通のメイル。一通目は上の子。可愛らしい彼のお土産のリクエストを頭の中のメモ帳に書き込む。二通目は夫。こちらはタイトルと発信者だけを見て、本文はここでは読まないことにする。自分がいかに無邪気な女でも、恋人との情事の部屋で、夫のメールは読めない。
ベッドに入った彼は、身体を伸ばして、その肌触りのいい寝具を味わっている。
その背中に張り付くようにしてベッドに入ったさほ子は、彼の厚くて大きな背中に頬をつけ、その感触を肌に記憶させようとする。
彼がシーツの海の中で振り向き、甘い愛の言葉を囁く。その言葉だけで、彼女は何もかもを忘れることができる。ゆっくりと、彼の言葉と腕の中に身を溶かし、甘くやさしい二度目のセックスを味わう。
生きている、という実感がする。男から愛され、そしてそれと同じ量の愛を、自分も男に与える。実にフェアで、そして気持ちがいい。そのためになら、どれだけ自分を磨いても惜しくはない。愛し愛されることこそ、自分自身の主たる栄養源なのだと、さほ子は思う。
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