EP.04 - 4
不意に背中を叩かれた。というよりも押されたという感じに近い。
「ひぃ」
ぼくはびっくりして前のめりに倒れそうになった。片足を前に出したことで軸となり体を支え倒れることを防ぐことができた。
いったい何があったのかと後ろを振り向くとそこには銀色の髪をした少女が今しがた走ってきたかのように呼吸を乱れていた。
魔道服のような黒いパーカーに青いシャツ、スニーカーのような靴、片手には色紙を手になにか口にしたいかのように口をパクパクとさせていた。胸にもう片方の手で押さえながら息が正常に戻るように落ち着きを払おうとしていた。
「あ……」
少女はなにか言おうとしていたが即座に辞め、黙った。
持っていた色紙を手に胸ポケットにさしてあったペンをとり、色紙に書く。その文字は先ほどの手紙と同じような文字だった。見ただけでわかる。知らない文字なのにわかるという謎の思考。
『急にごめんなさい』
と色紙に書いた文字を見せつつ、続きを書いていく。
『事情があって、喋れないけど。今日、来るかもって学園長から知らせがあったから、来たの』
あの手紙のことかと頭に浮かんだ。
学園長がよこしたということは、この少女も何かしらの魔法使いということ。
リコト先生が言っていた。学園に通う生徒、先生はみんな【○○の魔法使い】と認証のようなものの名称がつけられているということ。【○○の魔法使い】はその○○の通りにその魔法に特化しており得意ということ。
将来的にも○○で決まることがあるという話だ。
リコト先生も【相談の魔法使い】と呼ばれていた。今でも魔法使いから相談に来ると言われるほどこの認証は奥が深いということだ。
この認証は自分がつけるのではなく、あるとき誰かにそう呼ばれるか、学園長からそう呼ばれるかで決まるらしい。しかも、その人の特性や得意な魔法が異なれば、呼ばれる名称もまた、変わるという。
『ようこそ、シルウス学園へ。私は林道(りんどう)コトハ。あなたのルームメイトで『棲み家暮れ』宿の下宿人。これから、学園長にあいさつに行くからついてきて』
色紙を見せた後、ぼくの手をとって、「さあ、いっしょに」といわれるかのように学園長がいる学園へ連れていかれる。ぼくは、その見知らぬ少女に黙ってついていくべきか少し戸惑いつつ、少女の意志のままついていくことにした。
***
少女コトハとともに、とある街に通りかかる。寂れた町並みに誇りがかぶった家具や食糧難にやせこけた人々がすれ違う。建物はすっかりと黒ずんでおり火事か戦争か虚しさに包まれる。
少女は色紙を見せながら『この街から秘密の抜け道を通る』と数秒間だけ見せ、ぼくの手を力強く引っ張っていった。
その秘密の抜け道がある路地にたどり着く。何回か数えきれないほどの階段を上ったり下ったり、左や右に曲がったり建物と建物の境を潜り抜けたりして、ようやくたどり着いた。
左右には大きな壁で囲まれ、奥には『ゴミ置き場』と書かれた看板が置かれ、ゴミ袋は一つもない状態で偏狭な空間だけが存在していた。
「ここが…秘密の抜け穴?」
周りを睨みつける。これといって特徴がない路地。他に気になるものは何一つない。少女は黙ってゴミ置き場と書かれた看板に見つめていた。
ぼくは少女コトハに邪魔しては悪いかと思い、後ろを振り返る。そこには、ぼくをずっと見つめ涎を垂らす長身の男の姿が佇んでいた。
「え…なに」
男はぼくに近づき、不意に襟首をつかみ持ち上げた。ぼくは男に何かした理由もなにもない。ぼくはぶたれるかと思い目を瞑った。
そのとき、背後で少女が初めて声に出した。
「失せろ!」
綺麗で美しい。天使よのうな高い声。なめられたかのような全身を震わせるほどの声。ぼくはその少女の声に惚れてしまった。不思議でおかしいなほどに。
ぼくをつかんでいた男は急にぼくから手を放し、地面へ放り投げた。
「痛い」
擦りむいたのだろうか足に軽く傷跡が残った。膝の部分にだけズボンが敗れ、そこから血が滲み出ていた。
それを見ていた男がまっすぐにぼくへ近寄り、その流れ出る血をなめようと舌を出した。
「な、なにを」
恐怖と緊張が一気に全身を駆け巡った。その男はイってしまっているのか目は正常じゃない。左右に目の焦点を向け、目の玉はまるで作り物かのような丸く白い玉がそのまま入れたかのような異常じゃないものだった。
「針、奔(はし)れ」
少女は瓶に入った無数の針を地面へ傾ける。針が地面へ落ちると同時に無数の針が男を襲う。針が男の全身に突き刺さると、男は悲鳴を上げることなく、ぼくに執着があるのか欲求があるのか避けることもなくずっと血を舐め続ける。
「魂なきものよ、魂を求める殻よ、ここはお前の居場所はない。棲み家に戻ることを願う。禁忌、消滅の帰還」
少女が発すると同時に細身の男は突然霧となって消滅した。
幻か夢かぼくは少女コトハに問いかける。少女は再び口を閉ざし、色紙に文字を書き、見せた。
『あれは魔物。詳しいことは学園長が知っている。ここで起きたことあったこと、すべて秘密だ』
少女は再び壁に指でなぞる。魔法陣のようなものを描いているようにも見える。少女が一通り書き終えると、もう一度色紙を見せた。
ぼくは黙ってうなずき、ここで見たことは言わないことに承知したと促した。
魔物の存在。禁忌って言っていた言葉。コトハの喋ろうとしない理由。この世界のこと。いくつかの疑問を持ちつつ、ぼくは学園長がいる【シルウス学園】へ秘密の抜け穴を通っていった。
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