EP.04 - 3
「息を吸うように魔法は日々、吐き続けている」
ある人物から教わった言葉だった。
コトハの喋れば相手に縛り付けてしまう呪いをどうにかしてやろうと動き出してから半日が経過したが、いまだに解決できるめどが立っていない。
肝心のコトハは喋らなくても生活に支障がないと筆記で教えてくれるのだが、コトハの声に感動を覚えたぼくにとっては、コトハと普通におしゃべりしたいという欲望にうもまれてしまっている。
数週間前に起きた路地裏の事件で、コトハの魔法のおかげでぼくは命拾いした。そのせいか、周辺の人々はコトハを怖がり、みんな避けて通っていくのが目立つようになっていったのをぼくのせいだと攻めている。
神童ユキ先輩は「理由を知らない人にとってそんなもんだよ」って慰めの言葉をもらっていたが、正直そういうものだろうかとぼくは帰って追及してしまう。そんな気持ちに追い込まれる。
いまは、シルウス学園の西側に位置する大樹の森のなかの薬屋ラクラにいる。
ここで作られる薬はどこよりも一級品で、ぼくらが暮らす東側の住宅よりも遠いけれどもこの薬屋の味を知ってしまったら、他の店に行く気持ちもなくなってしまった。
「できたよ、眠り草と幸運の種で調合した薬だ。お代は20C(カム)」
「いつもありがとうございます」
ぼくは丁重に礼し、お金を払った。
「それにしても…」
薬屋の婆さんはぼくに言いづらそうに顔をちらちらと見ながら様子を確認した。
「コトハの治療方法…まだ見つかっていないようだね」
あたり。学園長が言うようにコトハの呪いはかなり強いもので言葉を縛ってしまうという呪いは大昔から存在しているという。その中でも言葉を口にすれば相手を縛り付けるまじない、呪いのようなものは魔女かそれ以上の階級の持ち主でなければ扱うことができない魔法だと教えてくれた。
コトハの呪いの始まりは口止めされているのか、本人から語ることはない。語ったとしてもいまのぼくではどうするにもできない。
「ええ、地道に時間をかけていくつもりですが…まだ……」
ぼくはため息をついた。正直不安しかなかった。
あの事件のとき、恐怖で言葉を失ってしまい、コトハを傷つけてしまった。すぐに訂正しよと「その言葉の呪い、きっとぼくが解決して見せるから!」といってしまったことに。正直、もう少し先で、解決方法が少しでも目に見えている状態で言えばよかったが、コトハの傷つきからして躊躇している場合ではなくなってしまった。
今にしてみれば言い訳かもしれない。それに、いつか言うことになる。
せっかくルームメイトなのに、なにも話せずこのまま終わりたくもない。
「もしよかったら、こちらでも調べておくよ。そんなやつれた顔をして、店主としてこちらの気分も落ち込んでしまうよ」
薬屋の婆さんはぼくの背中にドンと手で強くはたく。
「落ち込んでいても仕方がない、今はやれるところから始めよう」
婆さんの言葉になんだか救われたかのような気がした。「すみません」と礼をいい、店を後にしようとした。取っ手に触れたとき稲妻がはしったかのように妙な名案が浮かんだからだ。
「店主、薬でなんとか――」
「あー無理だね100%無駄だ」
即行で断られた。その理由を問うに「【呪い】は薬で解決できるほど生易しいものではないからだよ。もし薬でどうにかしたとき、副作用かなにかで術者も被害者も影響が出たらたまったもんじゃない。悪ければ死か良ければマナ消失か」と。
(薬では解決できないか)
ぼくは肩をすくめ、そっと店を後にした。
先輩に頼まれた薬を持って、重い足取りで家へ帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます