心を武器に変えて

EP.02 - 1

 数年前――魔征軍(デベゼラ)を率いる魔物の軍勢をたったひとりの英雄によって世界が救われた。英雄は限りないほどの武器を持ち入り、壊れては瞬時に切り替え、敵を粉砕していった。


 英雄が平和をかなえてくれたその日――魔征軍(デベゼラ)とは無関係だった人たちが謎の死を遂げていた。


 死――生きる屍。すなわち心を失った者たち。


 彼らはみな、英雄によって命を救われ、ともに仲間だったものたちだった。英雄の勝利とともに心を失った彼らは生きる意味も夢もすべて失い、英雄が前にしても彼らは口にせず、ただじっと空を見つめるだけだったという。


 英雄が失踪したのはすぐ後だった。


 仲間の心が消えたことなのか強大な敵だった魔征軍(デベゼラ)がいなくなったからなのか、世間の目から隠れるつもりだったのか…憶測が広がる一方で、英雄の語りは伝説となり、童話として子供たちに伝えられた。


 それから現在、殺風景な草原と不穏な空気に包まれた荒野のなかにこの大陸にとって大きい首都アルゼルスにひとりの青年が少女リゼと出会うことから物語が始まった。


===


 剣を振舞う一人の少女がいた。

 彼女はミクク。かつて英雄の仲間だったと知られる人物で、心を失うことなく生き続けているといわれる奇跡の人として伝えられている。


「今日も英雄リベル様の帰りをまつのです!」


 ミククは汗をかきながら剣を上下に振り、英雄リベルの帰りをひとり待ち続けていた。首都ロールから東に数キロ行った先に【カゴネ村】にミククの自宅がある。


 かつて英雄のリベルはミククに剣を与えて、次の戦いのために君の力が必要だ、と残しミククはリベルが必要としてくれる日を待ちわびていた。


 リベルが下さった剣を大切に扱い、日々、訓練に励んでいた。


 リベルひとりで魔物の軍勢を倒したと聴いたときはホッと胸をなでおろすと同時にわたしも参加させなかったという心残りを感じていた。


――次の戦いのために君の力が必要だ――


 とリベルはそう言っていた。


 けど、魔物の軍勢をたったひとりで片付け、あうことなく姿を消したのが気がかりだったのもあった。“次の”とはいつのことを言っていたのだろうか。


 魔物はあれ以降、王を失った魔物たちはちりちりになっていったという。


 その後の話では魔物の姿を見たことはないと言っていた。


 魔物は本当に消えてしまったのだろうか。なら、なぜ英雄リベル様は帰ってこないのだろうか。なぜ、顔を見せにきてくれないのだろうか。


 ミククの表情は少しずつ不安な気持ちに包まれていった。


 剣の稽古を終えた後は、いつものように井戸から水を汲み、自宅の保管水のなかへ入れる作業をする。妖精たちの手引きによってきれいになった水を口から喉へと流し込み、一日の汗水を補充する。


 軽く塩分をとり、再び稽古へと走る。


 それを1日に2回繰り返した。


 いつ、リベル様が帰ってくるのかわからない。けど、いつかきっと私を待っていてくれることを信じて、日々、鍛錬を積むことに欠かせなかった。


 それから数週間ほどたったころだろうか、ある騎士団の入団の手紙が自宅に届いた。その内容は、“先月の騎士団員の募集につきまして、ミククさまを合格となりました。指定した先へ、○○日にお越しください”そう書かれていた。


 リベルについていくことができなかったけれど、この手紙を見て少しでも成長できたところをリベルに見せれたらと思うと少しうれしく感じた。


 仲間にしてもらう前の自分は泣き虫で弱虫だった。


 虫一匹、ゴブリン一体を泣かすことも倒すこともできなかった小さな手に大きく暖かい剣を差し出したのは英雄リベルだった。二人で剣を振るい、ゴブリンを倒した日には、成長したという暁にリベルから剣を授かった。


 あれから何年たったのだろうか。


 騎士団に入団し、リベルと同じように騎士団としてみんなに役に立てるのだろうか。少し不安な気持ちになるもリベルも同じ道をたどったと思えば、そんな不安は横にすれる。


 先ほどの手紙をもう一度読み、指定された先へ向かうことにした。

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