EP.01 - 4 誤解
「ササミムダツ」
「な、なんて…」
飛鳥さんに俺は聞き返した。彼らの言う我愛羅語というのはどういう意味を持っているのか。そもそも俺を襲ってくる理由は何なのかそれが知りたい一心だ。
「お前は、どこから来た?」
「俺は日本という国から来た。途中で老人に出会って、この国まで連れてこられた」
嘘は言っていない。老人に無理やり吹き飛ばされ、この国に来たという理由を言っても彼らは信じないだろう。人が吹き飛ぶほどの指先一つの力をもつ老人がどこにいる? 仏様か精霊か、またしては神様か、彼らに言っても通用しないだろう。
「ミミカミムシゲザル」
飛鳥さんが通訳してくれている。この我愛羅語、少し高い声のような発音から低い発音と様々だ。それぞれの意味を持っているのかもしれないが、俺はひとまず彼らが俺を追う理由が知りたい。それだけだ。
「テヘンダムアギア」
「海棠さんが持っているモンスターの毛皮、あれ、討伐依頼が出されていたものらしいです。どうやら、彼らはあのモンスターをどうやって倒して、その素材を得たのか気になっていた様子です」
「アオパムキオク」
通訳を続ける飛鳥さん。
「その素材を売ってほしいと頼もうとしたら、逃げたので門番さんたちと追いかけたのが事の始まりのようです。いうなれば、害はありませんし、逮捕する気もないようです」
俺はホッとした。俺を追いかけていたのはこの素材を売ってほしいというものだったようだ。そうならそうと言えばいいのに、急に武装した男たちを呼ぶものだから、なにか悪いことをしたのかと焦ってしまった。
「ええ、いくらぐらいで買い取りますかって聞いてみてください」
「パパリオ」
「カムタム」
「800G(ギタン)で買い取るっと言っています。私としてはまだよい値段だと思います」
高いのか安いのかいまいちわからん。でも、ギタンという通貨…これも【風来の旅人】における通貨と同じだ。
この毛皮の価格が800Gということは、購入金額がおよそ8万Gという値になるのでは? これは、売ってしまった方がいいようだ。――というよりもこれだけの額ならもう少し欲張って毛皮を採取しておけばよかったなぁ。
心底、俺は俺にガックリと来てしまった。
「いいよと伝えてください」
「パーラ」
「サリバン」
「交渉成立です。これ800Gです」
袋にざっくりと小銭が入れられている。袋には【G】という単語が書かれている。800Gという800枚を数えるのは心底キツイ。数えずに受け取っておくことにしよう。
「マイダム」
「ありがとうっと言っています」
「通訳ありがとう飛鳥さん」
俺はしんどいと思いながら俺は寝ころんだ。木葉に邪魔され、青空を目に映ることはないけれども、飛鳥という人と出会えたのは嬉しいことだ。
「……ここで昼寝ですか」
「いや、少し背伸びしたかっただけ、すぐにおきるよ」
「なら、いいんですけども」
飛鳥さんが移動しない。ここは別々で行動するのではないのか、俺は飛鳥さんに訊いた。
「飛鳥さんはこれからどうするの?」
「私は、海棠さんについていきますよ。恩人ですから」
なんと、ゲームと全く同じだ。
俺はがばっと腰から上を起き上がらせた。
「え、ということは仲間…という奴なのですか?」
「まあ、そういう意味になりますね。それに、私の敗因でもありますし、昔から師匠に『世話になったり恩を作ったら、最後まで対等な恩を返せ』って言われてますので」
(その師匠様、感謝します)
俺は感謝する言動を胸に両手を置き、空に向かって拝んだ。
「あの、先ほどからの行動はいったい…」
「いえ、俺なりの趣味です。気にしないでください」
俺は飛鳥さんという心強い仲間を手に入れた。仲間ってこういう形で得るのかと元の世界ではありえなかった理由によって仲間を得たことにひどく感謝したのは生まれて初めてだったのかもしれない。
「…それで、行く手はありますか」
飛鳥さんに訊かれ俺は首を左右に振った。飛鳥さんは少し待ってから「行く予定があります。まずは腹ごしらえから宿を手に入れましょう」と腹をなでながら俺にそう言った。
ぐぅーという腹の音が聞こえた。俺ではなく飛鳥さんからだった。
「わたし、今日の朝方で資金がついたのです。敵を倒して得るつもりでしたが逆にやられ、助けられてしまいました。恩を重ねる結果となってしまうと思い、仲間として行動するうえで、お願い申し上げます。食べ物と宿代を私に差し上げてください」
丁寧なお辞儀までされてしまった。
俺はどう反応したらいいのかわからず戸惑ってしまったが、これが仲間というものだという単語に括り付け、所持金である800Gで食い物と宿をとるために一度、街に戻ることにした。
通訳は飛鳥さんがやってもらうけど、高くつかないかどうか心配だったのもあった。
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