EP.01 - 3

 街の繁華街にたどり着いたのはあれから2日後のことだった。森の中に彷徨うさなか、モンスターと思わしき獣に何度か襲われたが【剣魔‐いかぐち‐】のおかげで大きなケガもなく生き延びることができた。


 モンスターの肉を剣で剥ぎ、それを火で熱して食べた。元の世界にいた牛や豚と違って生臭く、苦く硬かった。もっと工夫すればおいしくできたのかもしれないが、あいにく調理方法も調理材も調味料もない。


 いまの俺には剣しかもっていないのだ。街に着けば少しは足しになるものを得れるかもしれない。そう思ってモンスターから得た多少の毛皮を戦闘に支障きたない程度にもっていた。


 街が見えたのはちょうど丘のような坂道に上ったことだった。偶然なのか必然なのか、誰かが歩いていくのが見え、俺は希望を求めてその人を追いかけるようにして走った。


 結果、街が近くにあることを知った。


 街につくなり、俺は毛皮を売ることができる場所を探すことにしていた。この世界についてまともな文化や通貨のことなぞ知らない。それに人と対して話したことがあるのはあの老人ぐらいだ。元に帰る方法を探す一方でこの世界で多少は生きていく術を身につけなくてはならない。


 そんな俺を支えてくれるのは仲間もしくはアイテム、装備だ。


 この世界のつくりや文化が【風来の旅人】シリーズの和風な建築物と雑貨が目立ったからだ。もし、似つかない世界だとすれば俺は生きていける自信が持てるという話だ。


 それにしても、街というよりも通路を挟んで互いににらみ合うような感じで建物が密集している。人の通りは多いが、異文国の集りだろうか西洋の服をしている者もいれば中華だったり和風だったりと様々だ。


 人は生き生きと行動している。立ち並ぶ店に寄り添い品物を見ている者から値段を聞いている者、買うもの、取引している者とざらだ。


(俺はついている)


 そう思ったのは、あのまま森の中にいて街ひとつみつからないサバイバル生活へ移転するのではと焦りぎみだったが、こうして街に会えたこともあって、俺は心の中で安堵している。


「カシザギミナモセトイ」


「?」


 通行人が俺に指をさしながら何か言っている。聞かれない言葉だ。


「シシザム、カナミザイム」


 武器を持った男たちが集まってくる。しかも、俺に近づいてくる。なにかしたのかもしれないと思った俺は、一刻も早くこの場から立ち去った。


 男たちはひたすら俺を追いかけてきた。意味不明な言葉を発しながら俺は「な、なんだよーいったいい!!!」と叫びながら街から逃げ出した。


 再び森の中に入り、追ってから逃げたと終わった矢先、どこかでキン、カンと鉄が何かを弾く音が聞こえてきた。


 俺は追っ手がすぐ近くまで来たのかと思いきや、「ひゃあ」と女性のような叫び声も聞こえてきた。


(どうやら追っ手じゃなさそうだ…)


 俺はその声と金属音がする方向へしずかに歩み寄った。



「無礼な! 三対一なんて…」


 右手を負傷し、剣を握れなくなり左手に持ち構える女性の姿があった。


 赤毛でポニーテールの髪型、青いバンダナを額にはめ、和風のような少し昔の着物のようなものを着ている女剣士の姿だ。


 囲まれている敵は兜をかぶった謎の騎士たち。1メートルほどの刀を片手に何も言わずに女性に降りかかる。女性はサッと身をよけるが、もう一体のモンスターに隙をつかれ、左手に持った剣で受け払うが、もう一体のモンスターの横振りにかわし切れず右手首を切ってしまう。


「きゃあ!!」


 右手首の感覚もない。ましてや、あまり左手で武器を持ったこともない経験のさなか、強敵ともいえない雑魚敵にあっさり囲まれ、隙をつかれてしまうとはなんという失格な私だ。…と思っているに違いない。


「ここは、身を引いてやり直すしかない…」


「――剣魔‐いかぐち‐切り捨てよ!」


 俺が静かに息を吐くように口にした。いかぐちは俺の考えをそのまま形にし、女性を囲む三体を切り捨てた。一瞬の出来事だったが、2日の間に、剣はすっかりと利口になり成長した。


 俺がまとまった言い分を言わなくても剣は答えてくれるようになった。モンスターに囲まれても「切り捨てよ」というだけで刃が液体化し武器を振るだけで、敵を切り裂いてくれるようになった。


 敵からしてみれば何が起きたのかわからなく倒れる結果となるが、俺としてみれば考えなしに倒れてもらった方がいい。(個人的に)


 スキル【武器創造】を初めて使った武器にしてはかなり優秀なやつだ。いかぐちという名は、俺がつけたのではなく、この武器自身がそう言って、俺は剣魔‐いかぐち‐と名付けたに過ぎないのだ。


 もっとも剣魔は剣と魔法の組み合わせで、そう名付けたに過ぎない。


「……あ、あなたは…」


 ようやく日本語が通じる人と出会えたと心の中で「うおっしゃああ!」と喜ばしい大声を上げていたのは内緒だ。嬉しくて言葉にできなかったけど心の中で何度もガッツポーズしていたのだ。


「…あー、俺の名は【海棠(かいどう)久雄(ひさお)】と、いいます」


 照れ臭そうにそう口にする。


 女性の反応は少し間をおいてから「獅童(しどう)飛鳥(あすか)」。まさかの反動に俺は衝撃波で吹き飛ばされた。実際は俺自らが足を蹴って後方へ吹き飛んだのだ。


「え、どうされましたか」


「いえいえ、感動しましたのでつい吹き飛びを…」


「え、どういう意味? なのでしょう」


「いえ、こちらの話なので」


 外見からもしかしてと思っていたが、獅童(しどう)飛鳥(あすか)といえば、【風来の旅人】シリーズにおける5作目以降に主人公と組んで冒険の仲間として加わる有名キャラクターだ。しかも、本人(?)といいたくなるほどの、主人公との出会いも忠実なほど同じだ。


(おちつけ、俺!)


 俺は立ち上がり、剣を鞘に閉じ、飛鳥に尋ねた。あることを。


「日本語をご存じなのですか?」


「に、ほん、ご? とはなんでしょうか…」


 あー、この反応。うっすらと表情で読み取れてしまう。


 日本語という単語も不明のようだ飛鳥さんは。ということは日本が存在しない世界なのかもしれない。そもそも【風来の旅人】シリーズでは日本という国は存在しなし、言語も我愛羅語という言語もあるほどだ。ためしてみるか…。


「飛鳥さん、あなたが使っている言語って我愛羅語というやつですか?」


「…ええ、たしかにこの国では我愛羅語ですが、私がいまあなたと話しているのはヒホン語です」


「ヒホン?」


「ええ、ヒホンです」


 ヒホン…日本を別読みにした単語か。気付くまで数秒かかってしまったが、流通している言語は日本ではなくヒホンというもののようだ。


「先ほど、街の人たちに追いかけられたのですが、ヒホン語はもしかして通じる人は限られているのですか?」


 飛鳥さんは頷き「ええ、この国では珍しい方です。私は父から教わって知っているので、多少は大丈夫ですが…そうですか……街の人に……」となにか怪しげな様子だ。


 飛鳥さんが心配そうな顔をしている。


 ヒホン語は珍しいって言っていた。もしかして、この国は死語もしくは古代文字のような扱いなのか。それも聞いた方がいいみたいだ。


「そのヒホン語ってむ――――」


「サムヤムサ」


 先ほど俺を追いかけてきた連中が木々の中から姿を現した。


 飛鳥さんという理解者を得て喜びを感じている間に彼らの足音を見逃してしまった。しまった。俺は焦りとともに飛鳥さんを見た。


「追われているのですね」


 飛鳥さんは悟った様子で、俺を取り囲む彼らに代わり仲介者として通訳を申し出た。

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