第30話 射程圏内!

八筒パーピンが二枚になった。でも……)


 

 24000点という制約を抱える故に、ナキは無理をしようとしていた。


(ただ、最悪の場合またドラが増えるかもしれない。『八筒』パーピンなら残しておけば混一色にできて邪魔にはならないし、捨てるならここかな?)


 束の間の思考を終え、ナキは『一索』を河へと捨てる。

 これで彼女の手牌はイーシャンテンシャンテン数1となった。

 だが、ナキが望むあがり形とは程遠い……さらに――。




(ふふ……いいのが来ましたね)


 ナキに次いで牌をツモった竜殺しの少女――。

 彼女は『四索』を自らツモることで『九萬』『七筒』『四索』での三暗刻攻撃発動条件成立テンパイとなっていた。

 しかも! 竜殺しの少女が雀頭としているのは、ナキが欲してやまない『西』!

 つまり、ナキはこの時点で彼女が頭に思い描いているあがり役をあがれなくなっているのである!

 だが――。


(……でも、これじゃあがれない)


 ――と、一枚のドラも出ていない河を見て、竜殺しの少女は胸の内で呟いた。


 今、彼女は不要である『一索』を捨てれば、『五索』『七索』のカンチャン待ち。

 つまり、『六索』をあがり牌にして攻撃発動条件成立テンパイをとることができる。


 しかし、彼女は竜殺し。

 ドラを多く抱える相手からあがらねばならず、また河で多くのドラが死んでなければツモあがりのできない制約を背負っている。


 現状、ナキの持つドラの数は4枚。

 そして、ジゼの持つドラの数は3枚。

 それだけでは、彼女にとって足りないのである。


(これまでも、こういう場面は何度かありましたね。攻撃発動条件成立テンパイしたのに、。そして、そのままドラの数が増えなければあがることができないまま、その局は終わる。なら――)


 竜殺しの少女の選択は決まっている。

 彼女は『一索』を捨てながら――。


(まだ、槓はやめないドラを増やす!)


 ――三暗刻を攻撃発動条件成立テンパイした途端、それを崩すと覚悟した!



 そして、手番はジゼへと回る。

 静かに山から牌をツモり、彼が『八筒』を捨てた直後。


呪文石多方奪取ポン!」


 ここで、ナキが動いたっ!


(八筒なら、鳴けるわ! 鳴きが入るなら、私の方が早い! それに――)


 ナキは『七筒』を手に取り、思考する。


(――『八筒』を鳴いて、『中』も鳴く! この形なら『西』を揃えることができなくても、『發』であがれば發中対々和混一色ドラ5は24000点!

 しかも、仮に『中』を鳴けずに『六筒』が来たとしても、その時は『中』を雀頭にして『發』であがれば發対々和混一色ドラ6で24000点!

 そして、どちらの形になったとしても、あがり牌がドラになる!

 私の手元に5枚以上のドラが集まったとしても! それは『赤五索』以外は私のあがり牌!

 つまり、仮に竜殺しちゃんに6枚目のドラを掴まされたとしても! 十中八九、私の勝利が決まるわっ!)


 だが!


竜誘引儀式カン――」

「なっ――」


 ナキが河へ『七筒』を捨てた瞬間……少女は竜誘引儀式カンを宣言した。

 彼女は河へと捨てられた『七筒』を手に取った後、リンシャン牌へと指先を伸ばす。

 そして――。


「これで……ドラ7ですね」


 誰にも聞こえないような小声でそうこぼし、王牌から新たなカンドラをめくった。


 めくられたのは『二筒』!


「こ……ここに来て、か」


 それは、ナキの口から弱音が漏れると同時だった。

 この瞬間、ナキが鳴いていた『三筒』三枚が、全てドラへと変わったのだ。


 その様子を見て、竜殺しの少女は愉快そうに微笑む。

 三暗刻攻撃発動条件成立テンパイを崩したことなど、些末なことだと言うように。

 また――。


(一度テンパイを崩したくらいで負けるような、やわな女の子じゃないですよ? あたしは)


 ――獲物を射程圏内に捕らえたと、言わんばかりに……。


 現在、ナキの抱えるドラの数――7枚。

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