第27話 だがしかし勝機は常にある!
竜殺しの少女による嶺上開花……。
彼女にツモあがりはないと踏んでいたナキとジゼにとって、それは思いの外精神を
「ツモ、あがり……?」
「……どうやら俺達は、ひどい思い違いをしていたみたいだな」
動揺を隠せない二人をよそに、点数移動は行われる。
ナキ 30900点 西
少女 40900点 親
ジゼ 33200点 南
少女があがったのはただの1800all……3600点。
だが、安手であっても二連続和了!
現状、ナキとジゼは竜殺しの少女に完全に翻弄されていた。
「ふふっ……お姉さん、残念でしたね? 緑一色……どこまで揃えらたんです? リャンシャンテン? それとも、イーシャンテンかしら?」
竜殺しの少女はくすくすと口元を隠して嗤う。
しかし、おかしそうにしていたのはほんの一瞬だ。
彼女はすぐに真顔に戻ると、間違いを正すように冷たく問うた。
「何を勘違いしているんです? 悠長に有効牌を集めて……あたしが『ロン』でしかあがれないとでも?」
そう思っていたナキ達に、返す言葉などない。
すると、黙り込む二人を見て少女はまたくすりと嗤い「これは、サービスですよ?」と前置いて口を開いた。
「ねえ。お姉さん、お兄さん。河に捨てられたドラって、何かを連想しませんか? そう、例えば……息を引き取り横たわる竜なんてのはどうでしょう?」
自らの異能を暗示するかのような少女の口ぶり。
直後、一度大きく息を吸ってナキが「そういうことね」とこぼした。
「確かに、私達はあなたの力を見誤っていたみたいね、竜殺しちゃん?」
ナキの言葉に次ぎ、ジゼも「そう言うことか」と小さく口を開く。
「ドラを多く抱える相手からあがり、竜を殺すのが君だ。なら、竜が死んだ後――つまり、河にドラが出た後ならば、ドラを抱える相手からあがるという制約がなくなり、あがり牌をツモれるようになる」
「いえ、ジゼ。ちょいと補足するわよ。あれは、制約が取れたなんてもんじゃないわ。むしろ、彼女の異能の延長線上。言わばあのツモは『竜を殺した報酬』」
たった今相手取っている雀士の本質――。
寒気を感じながら至った気付きを、ナキは解答する。
「ドラを多く抱えた相手がいる時はその相手からロンし、河にドラが捨てられ狩る竜がいなければ賞賛を受けるようにあがり牌をツモする。それが彼女――竜殺しの異能よ!」
おおよそ正解なのだろう。
竜殺しの少女はナキの言葉を否定せず、ただ次の対局を促した。
「さあ、再開しましょう? あたしの親で一本場、ですよ?」
『まだ、始まったばかりでしょう』と優しく微笑みかけながら――。
「
この場の支配者が誰であるかを示すように――。
「
少女は容赦なくドラを増やし――。
「竜殺、
容易なことだと言うように、あがっていく。
「ダブ東。4800」
東二局、一本場。
ナキ 26100点 西
少女 45700点 親
ジゼ 33200点 南
「ほら、これで……二本場です」
三連続和了を決めた後も――。
「
少女は止まらなかった――。
「
(ドラを抱えても、捨ててもあがられるなんて)
ドラを抱え、捨てることもままならず鳴きがまごつくナキと。
「
(くそっ。自分にドラが来ていない時は、
ドラが集まっていなくとも、ドラなしで高めの役を仕上げるために時間を要するジゼ。
そしてこの場合。
彼が高めの役を作ろうと時間をかけようものなら――。
「竜殺、
――先に、
「三槓子のみ。5800」
東二局、二本場。
ナキ 20300点 西
少女 51500点 親
ジゼ 33200点 南
まだ東二局だというのに少女との点差は開いていくばかりだ。
そして。
(流石にまずいな……次で三本場だ)
ジゼは、少女から直撃をくらいナキが大きく点を減らされていることに焦りが大きくなっていた。
(ここは、低めの手でもいいから先にあがって親の連荘を止めるべきか? このまま親にあがられ続ければ、いづれナキが飛ばされるっ)
しかし、仮に安手で竜殺しの少女の親番を流せたとしても、次の親はジゼ自身だ。
親であがれないジゼにとって、東三局は望ましい戦場にはならないだろう。
(どうすればいいっ)
そして、ジゼの考えがまとまらぬまま、東二局――三本場が始まってしまう。
だが――。
(この状況で、配牌時点で
迷いを抱くジゼとは裏腹に、配牌は決して悪いものではなかった。
配牌時点で、ジゼの和了に必要な自風牌が既に揃っていたのだから。
(これで……早上がりを目指すこともできる。だが……本当に、それでいいのか?)
ナキが飛ばされるのを防ぐための、速攻最速の早上がり。
安手で竜殺しの少女の親番を流す。
頭に浮かんだ選択肢。
しかし、その選択肢をジゼはどうしても最善と思えない。
行動に起こそうとすると、心の奥底から迷いが生じた。
そんな時――。
「
ナキが、竜殺しの少女の第一打。
彼女が捨てた『三筒』を鳴く!
(ナキっ……)
その瞬間、ジゼは闘志を失っていないナキの瞳を捉えた。
(まだ、勝負を捨ててないのか……)
今にも火を発しそうな双眸に、ジゼは己の弱気を呪う。
しかし、ナキが『七索』を捨て、再び手番が竜殺しの少女へ回った瞬間。
「
彼女は、ツモった『九索』で暗槓をした!
(また、ドラが増えるっ)
現在、王牌で表になっている牌は『白』と赤ドラではない『五筒』。
つまり『發』と『六筒』がドラとなった。
(だが、まだだ。まだ、あの嬢ちゃんがこれだけで満足する筈がねぇ……まだ――あっ)
まだ、カンが来る――。
そう考えた直後、ジゼは一つの道筋を見た気がした。
(また……カンが、くる?)
リンシャン牌をつもった少女が、『九筒』を捨てる。
そして、ジゼは自らの手番が回って来た瞬間――。
(いけるかも、しれない……)
山牌からつもった『一筒』を手に、ひとつの思い付きを試してみたくなった。
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