第24話 難しい方へ!

 緑一色リューイーソー――と、呼ばれる役満がある。

 どんな役か……それは名前を見れば想像に難くないだろう。


 そう、これはただ役満だ。


 つまり必要な牌は索子の二、三、四、六、八、そして發。

 赤ドラの『五索』のはおろか、現在ドラである『白』すら必要とせずに竜殺しの少女が出した条件をクリアし、なおかつナキが鳴いてもあがれる役満である。


 だが、仮にも役満。あがるのは決して容易ではない。

 しかし、ナキは自分の手牌を見て、この狙いは決して無謀ではないと考えた。


(今、緑一色に必要な牌は8枚もある。しかも『四索』はもう鳴いた。手牌に二枚ずつある『六索』と『八索』を鳴ければ『緑一色』をあがることも現実味を帯びてくるわ。それに、私は『發』も一枚もっている。こっちも二枚目が来れば雀頭にできるし、もちろん鳴けそうなら鳴いても良い。あと一枚しかない『四索』が来ても、加槓せずに置いておけば『三索』を引いた時に両面待ちで『二索』を待てる……ああもう! つまりは――可能性はゼロじゃない! あがるのよ役満を!)


「さあ。来なさいよ竜殺しちゃん?」


 対する竜殺しの少女は挑戦的な瞳を向けられた上で、この一言をくらった。

 彼女はナキがドラである『白』を捨てたことに眉をひそめ、山牌から牌をツモりながら訊ねる。


「……お姉さん。あたしの出した条件、覚えていますか?」


 すると。


「ええ、もちろん。


 ナキは不敵な笑みを浮かべ、わざとらしく何かを思い出すような仕草を見せた。


「確か、倍満や三倍満――つまり、……だったわね。そして、最終的な点差で私達があなたを上回っていても、あなたの点数が途中で0を下回っても……24000点以上をあがれなければ、私達の負け。あってるわよね?」


 少女に問われ、条件を再認するナキ。

 少女は自分の出した条件を、彼女がしっかりと把握していることを確認し、首を傾げた。


「24000点以上……ドラもなしにあがれると思いますか?」

「ええ。思うわ」


 ぴしゃりと断言する。


「ただ、難しくなるだけよ。そして、私はやってみせるの。難しい方をね」


 ナキの言葉を聞き、少女は彼女が勝負を投げた訳ではないと確信する。

 そして――。


「まさか――」


 少女もまた、ナキの狙いに気付いた。

 『四索』を鳴き、なおかつドラを使わずに24000点以上をあがる方法を。




(このお姉さん、本気ですか? せっかくあたしが倍満や跳満で良いと言ってあげたのに……わざわざ自分から、より確率の低い方を選ぶのですか?)


 少女はドラを抱えるリスクと役満をあがる難しさ。

 この二つを天秤にかけ、後者を選んだナキに驚きを隠せなかった。

 だが、驚愕が表情に滲む中――ふわっと、少女の口元に笑みが混じる。


(この人……ちょっとだけ、おもしろいかもしれない)


 それは、虚を衝かれたことにより生まれた一瞬の好意だった。

 そう、一瞬の好意だ。

 少女はすぐに冷静な自分を取り戻し、勝負に臨む。


(いいですよ。おもしろいじゃないですか……あたしからを避けて、役満をあがれるか。試してみれば)


 直後、少女は敵意で口元を染めて薄らと笑い、『九萬』を暗槓した。


竜誘引儀式カン

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