第21話 狙え!24000点!

 勝負は三魔、東南戦!

 だが、勝利条件はあまりに特殊だ!


 ジゼとナキは竜殺しの少女から倍満や三倍満などで24000点以上をあがれねば勝ちにはならない。

 それ以外の方法ではいかなる場合でも少女に負けることになる。


「どうしてあんな条件受けたの!」


 きぃっと騒ぐナキとは違い、ジゼは落ち着いていた。


「彼女を引きいれるのに、必要だと思ったからだよ」


 そして、ジゼは対局相手である竜殺しの少女へと振り向く。


「……なんですか? お兄さん?」


 先程よりかは、冷静さを取り戻したのだろう。

 少女は涼し気な表情を浮かべ、ジゼに微笑んだ。

 まるで、自身の勝利を確信しているかのように……。


 しかし、そんな少女に向けてジゼは笑みを返す。


「いやなに、対局前に君の名前くらいは知っておきたくてな」


 彼の言動に少女は不敵を感じた。

 あれは強がりとも、挑発ともとれる笑みだ。

 どこか底知れない脅威。それを彼女はジゼの笑顔に感じた。


「そんなに知りたければ、あたしをくだすことです」

「そうか。ならそうさせてもらおう」

「――っ!」


「ああもう! 始めるわよ!」


 痺れを切らしたようなナキの発言。

 直後、場決めが終わり、ナキの親番から勝負は始まった!


 ナキ 35000点 親

 少女 35000点 南

 ジゼ 35000点 西



 一巡目――ナキ。

 彼女は自身の配牌、そして王牌で表になっている『九萬』見て頭を抱えた。


(さっそく、ドラ3か……)


 ナキの手牌の中にはドラである『一萬』が二枚、加えて赤ドラである『五索』が一枚あった。


(配牌の時点でドラ3……普段なら喜んでいい立ち上がりだけど。今回ばかりはそうもいかない)


 ナキは隣で自身の手牌を見つめる竜殺しの少女に目をやる。


(……ドラ3。ここがまだ、彼女のでないことを祈るしかないわね。でも――)


 ここからドラが増えない筈はない。

 そんな確信を抱きながら、彼女は山牌から牌をつもる。


 つもった牌は『一索』。

 この時、彼女の中で一つ――自らが辿りつくべき役が見えた。


(三色同刻……サンシャンテンシャンテン数3、か)


 三色同刻とは萬子、筒子、索子の三種類の同じ数牌を三つ集める役だ。

 今、彼女の手牌にはその三色同刻をするために必要な牌が既に7枚揃っていた。


(一萬が2枚。一筒が3枚。一索が2枚……)


 一萬と一索を鳴き、三色同刻をあがる。

 そのイメージを胸に、彼女は『東』を捨て、手牌の『四索スーソー』そして『七索チーソー』を見た。


(うん。いける。三色同刻は今、これだけだと40符2飜で3900点。ドラ4なら18000点だ。でも、まだ18000点……けど、例えばこれを『四索』か『七索』の対々和であがったとしたら……)


 仮に、彼女が三色同刻の形を整え、赤ドラを含む『五索』二枚を雀頭として揃えた場合。

 対々和をあがれば――三色同刻対々和ドラ4で40符8飜で倍満24000点となる。

 つまり、初っ端から24000点をあがるという勝利条件を達成できるのだ。


(24000点であがる。そんな条件を突き付けられた時はどうなるかと思ったけど……案外、なんとかなるものね)


 まだ確信的な勝利ではない。

 だが、この瞬間、ナキには自身が勝利に近付いているのだという安堵があった。


 しかし!

 続く竜殺しの少女は自風牌である『南』を捨て、次にジゼが『三索』を捨てた瞬間――!


呪文石多方奪取ポン


 ナキではなく、竜殺しの少女が『三索』を鳴いた!


(なっ――飛ばされたっ)


 少女が『九筒』を捨てるのを見て、ナキは一瞬の屈辱を噛みしめる。

 だが、『まだ一巡飛ばされただけだと』彼女は思い直した。

 それに――。


呪文石多方奪取ポン!」


 ナキ自身も、ジゼが捨てた『一萬』を鳴いたのだ!

 直後、ナキは不必要な『八筒』を捨てる。


(これで、ドラ4! そしてリャンシャンテンシャンテン数2!)


 確実に勝利へと近付く感覚が胸の内に募る。

 しかし――!


竜誘引儀式カン


 ナキがリャンシャンテンとなった直後――少女はツモった『三索』で加槓を仕掛けた!


「なっ――」

「くるかっ――」


 思わず、ナキとジゼの口から声が漏れる。

 だが――この直後、ナキは言葉を


 竜殺しの少女――彼女の細い指が王牌に座する『九萬』の隣の牌をめくる。

 すると!


「――っ!?」


 現れたのは『九筒』!

 この瞬間、ナキの『一筒』三枚がドラに変わったのだ!


「そ、んなっ……」


 「――ありえない」と、言葉を続けそうになったところでナキは言葉を飲み込む。


(いえ――冷静に考えるのよ、ナキ。これで、良かったとも言えるわ)


 ナキは脳裏に浮かんだ『敗北』の二文字をかき消し、再び新たな勝利への目算を立てる!


(例えばこれで『六索』『七索』で両面待ちをして。三色同刻のみであがったとしてもドラ7――三色同刻ドラ7で24000点! むしろ待ちが4枚の『対々和』よりも待ちが8枚に増えるこっちの方が、!)


 そのはずだと、瞬時に自分へ言い聞かせ、彼女は少女の捨て牌を見ようとした。

 だが、と、ナキの思考が引っかかる。

 そして、彼女は気付いた。


 竜殺しの少女――彼女が加槓をし、王牌からリンシャン牌をツモした後――まだ、牌を捨てていなかったことに!


――竜誘引儀式カン


 それは、ナキにとって死刑宣告に等しかった。


「……あっ」


 彼女の声が漏れた瞬間、竜殺しの少女は『白』を暗槓して見せる!

 少女の細い指先は再び王牌へ……そして『九萬』『九筒』――二つの牌と並ぶ新たなドラ『九索』が開かれた!


「そんなっ、ありえない――」


 言わずもがな、ナキの手牌にあった『一索』が二枚……ドラへと変わる!

 これで、ナキの手牌にはドラが9枚!

 仮に、三色同刻をあがればドラ10! 三色同刻ドラ10の36000点!


 だが、ナキの瞳にあった勝利への希望は、徐々に薄れ始めていた。


 暗槓を終えた竜殺しの少女は再度リンシャン牌をつもり、コトリと『二索』を捨てる。


「さあ、続けましょう? お姉さん、お兄さん?」


 彼女は静かに打牌を促しながら、不敵な笑みを浮かべた。

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