第19話 竜殺しの弱点!?

「竜殺し……『ドラを多く抱える相手からあがる』異能か」

「ええ。間違いないと思う。さっきの対局中ね、私全員のドラの数を数えていたの」


「トカゲのドラをチェックする過程でってことだな?」

「ええそう。そしたらね、対局中、トカゲは常に手牌に抱えていたドラの数が四人の中で一番多かったのよ」


「――っ! 狙い撃ちにされたトカゲには『対戦相手の中で一番ドラを多く抱えていた』って共通点が、全局を通してあったってことか」

「そういうこと。だとしたら、今回ばかりは『ドラを集める』という異能が完全な形で裏目に出たと言ってもいいわね」


「二人の相性は最悪……というか、トカゲが一方的に不利だったって訳か」

「ええ、トカゲの異能が竜殺しちゃんの異能を助長する結果になったとも言えるわ。おそらくだけど、相手がドラを抱えれば抱える程、彼女はテンパイ速度もあがるみたいだから。まあ、テンパイ速度上昇に関しては半荘一回程度じゃ確信は持てないんだけどね」


 確信は持てない。そんな言葉とは裏腹に、ナキの表情は自信に満ちていた。

 おそらく、これまでも俺やトカゲ、そしてあの竜殺しの少女のような『祝福』や『異能』を持つ雀士達を大勢見てきたのだろう。

 経験から来る確信――乙女の勘、もしくは勝負師の直感とも言える感覚。

 それが、彼女の予想に真実味を与えていた。


「つまりあの子は、相手がドラを抱えて手が高くなれば高くなるほどそれを封殺できるってことか?」

「おそらくね。正直、敵に回せばやっかいな雀士だと思うわ。でも、わかりやすい弱点もあった」


「弱点?」

「そう、弱点。彼女ね、対局中、。トカゲの手牌にドラが集まっていたというのもあるんでしょうけど、彼のドラ支配は完全ではなかったわ。赤ドラは一枚も他所へ行かなかったけど、彼以外の竜人達の手牌にカンドラが何枚か乗ることがあった。でも、カンドラを含めても竜殺しちゃんの手牌には一度もドラが来なかったのよ」


 ナキは「もちろん。味方である竜人達にはドラが行くことをトカゲが嫌がらなかったという可能性も考慮すべきでしょうけどね」と付け加えると、再び思考を巡らせながら説明を続ける。


「『ドラの多い相手からあがる』という異能の性質上、竜殺しちゃんは『自分の手牌にはドラが一切来ない』という制約を持っていると思うの。あと、きっと彼女は『ツモではあがれない』とも思うわ」


「手牌にドラが来ず、ツモではあがれない……それが、彼女の弱点か?」


「たぶんね。『ツモあがり』ができないに関しては、これまた少しばかり自信がないのだけど……でも、ドラが来ないのは確定的よ。彼女、自分や誰かがカンしても手牌にカンドラが全く乗らなかった。あと、カン裏のドラも一切乗らないんでしょうね。あるいは、カン裏が乗りそうな時は、わざと鳴くか、リーチをかけずにあがっている……と、思う」


 ナキの予想を聴いていると、あの少女の魔雀はだいぶ窮屈なものに聞えた。


 彼女の魔雀は、ドラが手牌に来ない――それだけの話ではないのだ。

 例えば、ツモであがれないというのは役がフリテンになった場合、万が一にもあがれなくなるということだ。

 それに、リーチをかけたい時にカン裏が乗りそうだから――いや、カン裏がという理由で、リーチをかけられないというのも面倒な制約だろう。


 しかし、そんな制約を抱えていながら……先程、彼女は圧倒的な強さを見せた。


「……なあ、ナキ。今言った彼女の……それは、本当に弱点なのか?」


 ふと浮かんでしまった疑問を口にする。

 しかし、いぶかし気な俺の顔を見ると、ナキは挑戦的な笑みで口元を染めた。


「弱点じゃないかもしれないわ。でも、だからこそ私は彼女がほしいのよ!」

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