第18話 竜殺しの乙女!
その後も対局は続いた。
だが――。
「ありがとうございました。大丈夫ですか? 竜のおじ様?」
「と、トカゲ様ぁっ!」
終わってみれば、結果は少女の圧勝。
竜人達は誰一人として彼女に手も足も出なかった。
満身創痍のトカゲは連れ添っていた竜人に肩を貸され今にも倒れそうな有様だ。
「ぐっ……な、何故だ」
幾度となく手傷を追った体を震わせ、項垂れた頭をあげてかすれた声でトカゲは問う。
「何故……お前は、ワシからあんなにも――あが、れた……」
それは自身の弱さを認められない者のような言葉だった。
なぜ負けたのかわからない。
相手の強さを理解できない。
そんな、まるで弱者が意味もなく口にする、負け犬のヨダレのような戯言。
しかし、この対局を見ていた誰しもが、彼の抱いた疑問と同じことを胸の内にくすぶらせていただろう。
何故ならば――。
トカゲ -800点 親
セイメエ 24000点 南
竜人 25000点 西
少女 51800点 北
対局中、少女はトカゲからしかあがらなかったのだ。
たった一度のツモ上りもなく、また他の者にあがらせることもなく。
彼女は、トカゲからしかあがらなかった!
一度、セイメエがリーチをかけた時にリーチ棒分の1000点を奪うことはあった。
だが、それ以外は全くの無傷。
トカゲ以外の者は誰も少女に振り込まず、また彼女もトカゲ以外からはあがらなかった。
少女は一方的に、圧倒的にトカゲを狙い撃ちにし、彼からあがり続けたのだ。
まるで、他の者など眼中にないと言わんばかりに。
そんな異様な対戦の後、少女はトカゲが発した問いに答える。
彼女は実に歳相応のこどもらしい無邪気な笑みを浮かべ。
「あなたが竜に愛されていたからですよ。あたしと違ってね?」
到底答えとは思えない言葉を残した。
だが――。
「あに、はからんや……まさか、そのような者がいようとは――」
少女の答えを耳にしたトカゲは、得心がいったとばかりに口元を緩める。
「――ワシとは、まさに対極……竜を見捨て、竜に見捨てられた者、か……」
薄れゆく意識の中……トカゲは束の間の幻想を目にした。
目の前の少女が浮かべた微笑みが、敬愛する竜の返り血に染まる幻想。
そして、彼は自らの敗因――少女が持つ性質を悟り、気を失った……。
◇
トカゲが意識を失うと、周囲はより一層騒然となった。
「先に走って医者に事情を話せっ!」
「ああっ! おい、通せ! 邪魔だっ!」
従者の竜人達の内、一人が傷だらけのトカゲを背負い、残った一人が野次馬の間をかき分けて走る。
周囲の野次馬が運ばれるトカゲをのそのそと避け始める中、俺は……いや、俺達は妙な高揚感を覚えていた。
だって、そうだろう。
たった今俺達は、リストに名を連ねない強者を見つけたのだ。
「なあ、ナキっ」
「ええ、見つけたわね」
俺の呼びかけに、ナキは企むような笑みを返した。
「あの子、すごいわ。トカゲのドラ麻雀をああも一方的に封殺した」
「ああ。あれは……あの子も雀奴隷か?」
祝福――。
超微小生物達が雀奴隷の雀士達に許した『あがり』への特殊な道筋。
あの少女の魔雀には、目に見えてわかるその特異さがあった。
だが。
「そうね……」
ナキは首を傾げ、ちいさな間を置く。
「なにか『タネ』があるのは確かよ。ただ、あれは
「異能……?」
「ええ。そしておそらく、トカゲとは全く逆の異能だったのね」
「確かに、そんな雰囲気はあったな」
「あのね、いくつか気付いたことがあるの。何故、彼女があんなにもトカゲだけからあがることができたのか」
「それは俺も考えてた。もしかして『任意の相手から必ずあがる異能』とかか?」
頭の中に浮かんでいた思い付きを口にしてみる。
しかし、ナキは溜息を吐きながら俺の考えを否定した。
「いいえ。おそらくもっと限定的な力の筈よ。そして、私が注目したのはドラの数」
「ドラ?」
「そう。きっと、あの子は『ドラを多く抱える相手からあがる』異能の持ち主……さしずめ、
トカゲを封殺した少女――。
彼女に勝手に異名をつけると、ナキは楽し気に口元を歪めた。
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