第16話 出会え!『トカゲ』と呼ばれる男!

 雀巣『デーモンガーデン』から離れた商店通り。

 雀奴隷という身分上、自由に行動できる場所は少ない。

 だが、共同生活区とも言える幾つかの場所には、雀奴隷達も自由に出入りができる。

 まあ、自由に出入りができるからといって行動に制限が伴わないわけではない。

 例えば、自らを保護してくれる何者かがいない場合、この自由というのは簡単に『放し飼い』という言葉に置き換わるのだ。


「いだっ――も、やめっ」


「あっ、んっ――いやっ、もうっ……ぃぁ、あっ」


 通りの隅で、暴力に晒される男や女。

 歯を食いしばりながら、俺はナキと商店通りの先にある雀巣『竜の巣』に向かっていた。


「……ジゼ、変な気起こさないでよ?」

「……ああ、わかってるさ」


 かつて、勇者と呼ばれたこともあった。

 だが、俺は今、正義なんてものを簡単に振りかざしてはいけない。

 抗う力を得たからといって、この瞬間にそれを振るえば、ナキやルリ姐さんを危険に晒すことになる。


「急ごう。『トカゲ』って奴はそこにいるんだろう?」


 感情を押し込めながら訊ねると、ナキは無言で頷いた。





 『トカゲ』――。

 雀奴隷ではないが魔王にとって中立的な立場にいる竜人の男だ。

 ルリ姐さんの作ったリストに名が書かれた者の中でも屈指の強さを誇る雀士。

 その特徴は、ひどく強いドラ麻雀だ。


「なんでも、この『トカゲ』って竜人、ドラ4以下であがったことがないらしいわ。もちろん和了率も低くない。無理をしている訳でなく自然と手牌にドラが集まって来るみたいね」

「おそろしい話だ」


 雀巣『竜の巣』を視界に捕らえ、俺達はリストに書かれた『トカゲ』の情報に再び目を通す。


「ええ。でも、味方につければ彼ほど頼もしい起爆剤もいない。噂じゃ自分以外の誰かが龍召喚儀式カンしても、自分の手配にドラがくるらしいわ。ドラ8やドラ9でリーチをかけて、いとも簡単に役満をあがっていく超攻撃型の雀士」


「……つまり、俺達に不足しがちな攻撃力を補える人材ってことだな」

「そう言うことよ。彼の超攻撃力――これは、魔王と戦う上で必要になってくる筈」


 俺とナキは『トカゲ』と呼ばれる雀士の必要性。

 それを強く感じながら雀巣『竜の巣』に着き――。


「行くわよ」

「ああ、必ず仲間に引き入れよう」


 ――『竜の巣』の扉を開き、奥へと進んだ。


 だが――。


「と、トカゲ様! もうよしましょう! 我々のことはもうっ――」


 雀巣の中に入った瞬間、目的の男の名を呼ぶ悲痛そうな叫びが聞こえる。


「ええい! 黙らんかセイメエ! あの娘に勝てねば――ワシは、ワシは――」


 直後、俺達の視界には傷ついた体で膝を着き、必死に小さな少女をにらみつける竜人の男がいた。


「まさかあれが……『トカゲ』?」

「ええ。故国では『竜王』とまで称される強者でありながら、自らの強さに満足せずいまなお『トカゲ』と名乗る、凄腕の雀士……けど、なにか変ね」

「少し、様子を見よう」


 探し求めた『トカゲ』のただならぬ姿。

 そして、彼の視線の視線の先にいる少女。

 俺達は人だかりに混ざり、声をひそめて彼らの行動を見守った。


 すると、膝をつくトカゲに対して幼い少女が声をかける。


「もう、やめにしませんか? 竜のおじ様。いくらあたしが威力の低い魔雀術安手でばかりあがるからって、そんなに負け続けては傷が積み重なってしまいますよ? 塵も積もれば山となる。いまに、?」


 少女の言葉に、俺達はただただ驚愕した。

 彼女の言葉が、俺達の探し求めていた男を一方的に叩きのめしたことを表すからだ。

 見た目、まだ十に届くかも怪しい幼い少女が、屈指の実力を持つ雀士を負かせた。

 耳にするだけでは到底信じられない。

 だが、目の前で傷だらけになった竜人が、必死の形相で屈辱を噛みしめる男達が、彼女の言葉を裏付ける。


 しかし、まだ心のどこかでその事実を受け入れられない俺達に、機会は訪れた。


「もう、一度だっ!」


 トカゲが叫び、少女を決闘空間へと招く。

 直後、彼の言葉に従いセイメエと呼ばれた竜人と、もう一人若い竜人が決闘空間に加わった。

 彼らは、三人がかりであの少女に東風戦を挑む気なのだ!

 だが、少女に臆する様子はなかった。


「はぁ……やれやれ、もうずいぶんと生活費お金をいただいているのに。この上命まで取っては申し訳ないのです……ですが、おじ様にも矜持や意地、やらねばならない理由がおありなのでしょう? ならば、お付き合いして差し上げます」


 彼女は魔雀による対戦を了承し、彼らの開いた決闘空間へと足を踏み入れる。


「さあ、始めましょう? 矜持や意地ではお腹が膨れないことを……あたしが教えてあげます」


 恐れも知らぬ様子で少女は不敵に笑い。

 東風戦龍種狩りは始まった。

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