第15話 千歳瑠璃の難題!
「はあぁ……あなたって子は、どうしていつもいつもそうなんでしょう」
ルリ姐さんは大きなため息を吐くと、頭を抱えてしまった。
今までは『呆れた』というニュアンスの強かった口調も『どっとつかれた』という感じに変わった気がする。
今、この場に入るのは牌魔国一の美女ではない。
ただ、子育てに苦悩する一人の母親がそこにはいた。
「はぁ……男の扱いも料理も掃除も商売も……なにを教えても身につかなかったのに」
これまでの苦労を思い返しているような目線がナキへと向けられる。
すると。
「つかえるものはなんでも使え、でしょ?」
悪びれる様子もなく、あってるでしょ? とでも言いたげにナキはハキハキと答えた。
「……それだけはきちんとできているようね」
「だって、ルリ姐にはたくさんのことを教えてもらったけど、これしかできることがなかったんだもの。なら、この唯一を私が実践しない筈がないわ」
「自慢げに言うことじゃありませんっ! 全くもう。はぁ、あんなに不器用で物覚えが悪かったのに……なのに、魔雀なんて教えてもいないことは勝手に覚えて」
「ええ! おかげで蹴ったり殴られたりする奴隷にならずにすんだわ」
はつらつと、まるで褒めてとせがむ幼子のように言うナキ。
ルリ姐さんはやれやれと首を振ると、根負けしたかのように口を開いた。
「はぁ……わかりました。確かにあなたの言う通り、思慮が浅いくせに妙に自信家で中途半端に実力のあるあなただけにやらせるのは私の本意ではありません」
「それじゃあ!」
「ええ。協力してあげましょう。みすみす、あなたを魔王に殺させる訳にはいきませんから。ただしっ――」
ここからは紡がれた声は、これまでのルリ姐さんの元とは一味違った。
いわばそれは、戦う意思に溢れた凛とした声!
覚悟を決めたと言わんばかりに、彼女は俺達に『条件』を付き出した。
「――この紙を御覧なさい」
ルリ姐さんが俺達に見せたのは――人名の並ぶ何かのリストだった。
「これは?」
「現在牌魔国にいる、反魔王の意思を持つあるいは中立的な立場にいる雀士のリストです。それも、みな名のある者ばかり」
「反魔王の意思……ということは、こいつらを仲間に引き入れろということですか?」
俺の質問に、ルリ姐さんはこくりと頷いた。
「ナキはともかく、私はまだジゼさんの実力は知りません。けど、ナキと同等、いえそれ以上に強い打ち手だったとしても、あなた達だけでは魔王討伐のための戦力として不足している。無茶をするには、それなりの力がいるのよ」
直後、ルリ姐さんは俺とナキに向かって――ぴっと、三本の指を立ててみせた。
「最低でも三人。つまりあなた達を含めて五人の雀士を集めなさい」
「五人……それだけでいいんですか?」
「ええ。ただ、これはいわば少数精鋭の実行部隊よ。他に必要な人員や資材は私が千歳瑠璃の名に懸けて集めます。だからこそ、あなた達に妥協は許されない」
威圧するようにも、ルリ姐さんは俺達に念をおして告げる。
「いいですか? 少なくとも三人。一切の妥協なく、魔王の四天王に匹敵する実力を持つ者を集めるのですよ?」
淡い月光をおびたような瞳ににらまれ、俺とナキは生唾を飲み込むと、二人でじっとリストの名に目を通した。
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