第13話 悪待ち上等!曲げられぬ意思!
俺達のやりとりを見て、ルリ姐さんはくすくすと笑う。
しかし、可笑しそうに表情を変える一方で、その瞳はどこか憂いを帯びていた。
いや、彼女が俺の目には儚げな美女に見えているから、補正がかかっているかもしえないのだが。
だが、今回に限っては俺の勘が当たったようだ。
「打倒魔王――そんな夢物語を胸にしてもう何度もここを出てはダメだったと私に泣きついてきたけど……いよいよ、いい人を見つけたのね?」
月明かりに似た優しい眼差しがナキに向けられる。
すると、つい先程まではこどものように振る舞っていたナキの背筋がぴんと伸びた。
「今日は、お願いがあってここへ戻って参りました」
真剣な瞳、真面目な声。
『打倒魔王』
胸に秘めた大きな目標。
それが生半可な気持ちではないのだと言わんばかりにナキは告げる。
しかし。
「わかっています。後ろ盾になれと言うのでしょう? あなた達がこれからすることの」
ナキの考えを見越していたのだろう。
千歳瑠璃とも呼ばれる女性は、応とも否とも取れない声で語った。
だが。
「私が、それを了承すると思いますか? こんなにもあなたを愛している私が。雀巣、娼館という形でしか自分の愛する者を守れないという考えに至った私が。魔王に立ち向かうという行動を、支持すると思いますか?」
続く言葉には、応という毛色が微塵も感じられなかった。
直後、好奇の声色で話し、楽し気に様子を窺っていた外の女性達が静かになる。
ナキもルリ姐さんに語る言葉を必死に探すようにうつむいてしまった。
こんな中で、いきなりこの場に連れてこられた俺に何が言えるだろう?
いや、言えたとしても、目の前にいる美しい女性の機嫌を損ねるだけではないか?
言ってみれば――彼女にとって俺は娘同然であろう少女を危険な道へと引きずり込んだ悪漢にも等しいだろう。
しかし、だからどうした?
「なあ、ナキ」
俺は、この少女が胸に秘めた大きすぎる目的を知っている。
「俺は、お前の誘いに乗ったんだ」
戦う術を与えてくれた、彼女の想いを知っている。
まだ、その真意や彼女自身のことはわかっちゃいない。
だが、ここで引きさがるような奴の誘いにのる程、俺だって安くはない。
「やると、決めたろう? 二人で」
命の危険があろうと、棘の道だろうと、後悔だけはさせるつもりはない。
千年硝子の千歳瑠璃。
彼女にどれ程の力があろうが、無いなら無いで、やりようはいくらでもある。
いわばこれは――ただ、勝率の低い役に待ちを変えるだけなんだ。
二人でだってやれるさ、と。
そんな気持ちで俺はナキを見た。
すると。
「ばかね」
口をつぐんでいたナキは俺に対して悪態をこぼし。
「間を図ってる間ぐらい、静かに待っていなさいよ。相棒を信じてさ」
自信が滲むような笑みを浮かべた。
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