第11話 雀巣!『デーモンガーデン』!

 雀巣……それはいわば魔王が配下の魔族にあらゆる暴力を許した場所だ。

 苦痛を与えて楽しむことを目的とした雀奴隷はもちろん。

 魔雀以外の方法で痛めつけられる者もいる。

 また、奴隷娼婦や奴隷男娼といった性欲を満たす目的で置かれる者もいた。


 ひかえめに言って下卑、下品、下劣の特許区。

 奴隷達に与えられる報奨と言えば布切れのような衣服とゴミのような食事。

 そして、ありとあらゆる屈辱だった。


 筈なのだが……。




「ここよ」


 ジゼがナキに連れられた場所は、彼の知る雀巣とはだいぶ様子が違っていた。

 もし彼のよく知る雀巣を掘っ立て小屋だと表すのなら、雀巣『デーモンガーデン』はある種の城――そう、高級娼館とでも言えばおおよそ適確だろう。


「ここが……デーモンガーデン?」

「そう。他所の雀巣と比べて、ちょっとばっかりお行儀の良い魔族が集まって来るところね」


 「それでも、奴隷と言うことに変わりはないのだけど」と、静かに言葉を付け足すとナキは悔しそうに唇を結んだ。


「さっ。裏口から入るわ。離れないでね」


 直後、ナキはジゼの腕を掴み。


「ほら、ぼさっとしない!」


 デーモンガーデンの裏口へと向かう。

 彼女は裏戸の前に立つデーモンの大男に軽く会釈をすると、阻まれることもなく、ジゼを建物の中へと招き入れた。





「なっ――」


 建物の中に入ってまず俺の視界に飛び込んで来たのは綺麗な布地から透けた、美しい女性達の肌だった。

 しかもほぼほぼ裸体。

 下着姿と言っても過言ではない装い。

 それも、視界に入る女性はみなエルフかと思う程のとびきりの美女揃いだった。


 がっ!


「いでっ」


 俺が一体どこを見ているのかわかりきっていたんだろう。

 ナキに足を踏まれ注意される。


「あんまりじろじろ見ちゃだめ。エッチ」

「いやっ! そうは言ってもさ!」


 見るなと言われても視界に入る女性、みんながみんな大胆な格好をしているのだ。

 加えて――。


「ナキィッ!」

「ナキが帰ってきたって本当っ?」

「やだ! ちょっと、しばらくアタシにお客回さないでよ!」

「あーんっ、今からお客の相手しなきゃいけないのにぃっ」

「ちょっと! 店に出てる子には内緒よ! 誰も仕事しなくなっちゃう!」


 ――何人もの半裸の美女達は、俺(の隣にいるナキ)に向かって走り寄って来るのである。


(こんな状況で、一体どこを見ればいいんだ)


 と、そんな具合に心の内で煩悩に負けそうになり、目をつぶりながらも薄眼を開けていると。


「た、ただいま。姉様がたっ、心配かけました」


 照れくさそうにはにかみながら、美女達に言葉を返すナキの横顔に目を奪われた。

 それは、まるで幼子や妹が母親や姉にみせるような表情。

 ナキがこの女性達に心を許していることはすぐにわかった。


 とりわけ――。


「あら? 今回はずいぶん早いお帰りね。それも殿方も一緒だなんて。やっぱり、ナキは隅に置けない子だったわね」


 雀巣の奥から鈴を転がしたような声が聞こえた途端。


「ルリ姐さん!」


 ナキの表情は格別にやわらかくなった。

 直後、彼女は俺や周囲に集まっていた女性を置いて、一目散に駆けていく。


「ルリ姐さん! ただいま! 会いたかったっ! 姐さんを思わない日は一日だってなかったわ!」


 そう言って、ナキは『ルリ姐さん』と呼んだ女性に抱き着いたのだが……。


「あらあら。そんなに想ってくれるのなら、ずっと私の傍にいればいいでしょう?」

「そういう訳にはいかないわよ!」


 俺は彼女達の様子を見ながら、ナキのはしゃぎように驚くよりも……。

 『ルリ姐さん』の絶世の美女っぷりに息を呑み――。


「ちょいと、兄さん? 鼻の下が伸びているよ?」


 ――周りにいた女性達に、そうからかわれるまでただただ言葉を失っていた。

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