第10話 君の雀名は!

 ナキと行動を共にすると決めて1週間。


「ジゼ? ちゃんと聞いてるの?」

「あ、ああ。すまん」


 俺は、彼女からジゼと呼ばれていた。

 だが、この『ジゼ』と言うのは俺の本名ではない。

 それに、どうやらナキも『ナキ』と言う名が本名ではないとのことだった。


 俺と彼女が名乗っている名前。

 これは『雀名』と呼ばれるもので、雀奴隷にとっては重要な意味があるらしい。


 なんでも、微小生物たちから許された――彼女いわく祝福にちなんだ名を自らの名として改めることで、以降の和了率が上がるそうだ。


 そして、ナキという名は、まんま『鳴く』ことが由来らしい。

 俺のジゼというのは『ジカゼハイ自風牌』から二文字をもらった形となる。


「それで、俺達の拠点をどこにするか。だったか?」


 話は聞いていたと伝える意味も込めて、俺から話題に触れ直すと、ナキは「ええそうよ」と肯定したうえで話を再開した。


「今、私達は他の奴隷達と同様に奴隷居住区で生活をしてるでしょ? ここには多くの奴隷がいるし、仲間になってくれる雀奴隷もきっと多いわ。でも、敵である魔王に忠誠をつくす者や甘い汁を吸わされて服従をよしとする者もいる」

「味方になってくれる奴も多いが、敵に俺達を売って得する奴も多いってことか」


「そういうこと。それに、何かあった時、共同居住区にいる何の罪もない奴隷達を巻き込むのはかわいそうでしょ?」

「確かに。なら、共同居住区からは離れた場所がいいか?」


「ええ。というか、一つ良いところを見つけてあるの。というより、そこで活動できないなら、私は他に『安全』と呼べる場所を挙げられないわ」


 敵国のど真ん中にあってナキが安全と言う場所。

 代案が出せる訳でもなく、牌魔国の土地勘が全くと言っていい程ない俺は彼女の提案に乗るしかなかった。

 だが――。


「聞かせてくれるか?」

「もちろん。それはね『千年硝子せんねんがらす』と呼ばれる女性が仕切る雀巣。デーモンガーデンよ」

「じゃ、雀巣!?」


 ナキが口にした場所が『雀巣』であると知った瞬間、俺は彼女の正気を疑ってしまう。


「おいおい! あんな雀奴隷をいじめ抜くためだけにある場所がなのかっ?」


 声がひっくり返ることも気にせず訊ねると、彼女は冷めた眼差しを俺に向けた。


「気持ちはわからないでもないけど……まあ、これは説明するよりも実際に行った方が早いわ。それとも、まだ私の言葉が信じられないの?」


 ナキの口ぶりは、まるで俺を試しているかのようだ。


「……いや、君を信じる。信じてみる。というか、裏切られても後悔はしないさ」

「いいじゃないっ! そういうの気分いいわっ」


 俺の返答を聞くなり、彼女は満足そうに笑った。


「じゃあ、行くわよ。雀巣『デーモンガーデン』へ!」


 晴れやかな声で告げられる行き先。

 一抹の不安を感じながらも、俺は「ああっ!」とナキに答え――雀巣『デーモンガーデン』へと向かった。

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