第8話 共謀――いや、魔王打倒の決意!
ザドリエとの戦いを終え、雀巣を出ると。
「勝てたのね」と、満足そうに微笑むナキに迎えられた。
だが、俺は「ああ」とだけ彼女に応え。
「けど――」
と、漏らしてつい先程の対局を思い出す。
「なんというか、まだ実感は湧かないな」
この瞬間も俺が雀奴隷であることに変わりはない。
しかし、俺は雀奴隷の身でありながら、何度も敗北を喫したあのザドリエに勝てたのだ。
心のどこかで、まだこれが夢なのではないかと思う自分もいた。
例えば、魔王に負け、姫や祖国の期待に応えられなかった自責から逃れるために夢幻を望んでみているのではないかと……。
だが――。
「どう? 私のいったとおりだったでしょう?」
自慢げに言い、えへんと胸を張るナキを見ていると、少しずつ実感が湧いてきた。
牌魔国には俺の知らない魔雀の世界、理があったのだ。
魔雀の呪文石として共生の道を選んだ微小生物たち。
彼らを使役する雀士と、彼らに使役される雀奴隷という存在。
そして、例え雀奴隷となってもまだ勝つ方法はあるということ。
自分がまだ、魔王を相手に戦えるかもしれないという可能性。
それは、牙を抜かれ負け犬と化していた俺に再び戦意を取り戻させた。
「
「ええ。それが、微小生物たちがあなたに許した祝福よ」
自風牌――。
それは魔雀の役の一つ。
東家ならば東、南家ならば南、西家ならば西、北家ならば北。
といった具合に、自らに与えられた家と同じ東、南、西、北の風牌をそろえると成立する。
単体では安い手だが、自風牌さえ手元にくれば鳴いても成立するので作りやすい役ではあるだろう。
だが、一つ。
自風牌には――いや、俺に許された祝福には決定的な弱点があった。
「……なあ、本当に俺は親番であがれないのか?」
確認するようにナキに問うと、彼女は「半荘一回では無理ね」と返す。
「さっき、ザドリエと戦った時に確認できなかったの?」
「ああ。俺が親になる前にザドリエをとばしちまったからな……」
「なら、南入もしなかった訳ね」
「ああ」
ナキは「どうりで出てくるのが早いと思った」とこぼすと、確定的な事実だと俺に認識させるように告げた。
「いい? あなたが微小生物に与えられた祝福は間違いなく『自風牌』よ。そして、私の『鳴き』と同じで、あなたの魔雀はこれから『自風牌』に縛られることになる。あなたは自風牌を目指すことでしか手が進まず、自風牌でしかあがれない……だから」
「問題は
「ええ……ダブ東。ダブ南。つまり東場の親と、南場の南家の時、あなたはあがれないは、これは絶対よ」
真剣な声色で話すナキに、俺は「わかっているさ」と頷いた。
それは、自風牌と同じ風牌に関係する役の名だ。
魔雀の東風戦は東場と南場の各半荘一回ずつで行われるのだが。
東場の時に『東』を南場の時に『南』をそろえてあがれば、それは『場風牌』という役になる。
そして――。
東場の時に東家……つまりは親で『東』を。
南場の時に南家で『南』をそろえてあがるとあがった者は自風牌と場風牌を同時にそろえることになるのだ。
自風牌と場風牌を同時にそろえると、それは各々『ダブ東』『ダブ南』という自風牌と場風牌とは違う役になる。そう、なってしまう。
だが、俺は『自風牌』でしかあがれない。
つまり『自風牌』という役を成立させても、それが『ダブ東』『ダブ南』になってしまう『東場の親』と『南場の南家』では絶対にあがることができないのだ。
しかし、落ち込むことはない。
「まあ、でも……やりようはある。俺はただ、東場の親で連荘できなくて、少なくとも8局の内2局あがることができないってだけだ」
ハンデは誰にでもある。
必ず、異なる形で誰にでも存在する。
「ナキ、俺は君の誘いに乗るぜ。魔王になるつもりはないが……君と一緒に、もう一度魔王討伐! この目標を掲げよう!」
もう一度、戦う術を手に入れた。
今はその事実を胸に、俺は彼女の――ナキの誘いを改めて受けようと決意したのだ。
一度は断った関係を求め、ナキへと手を差し出す。
すると。
「当然ね」
彼女は不敵に笑い、俺の手を取った。
ここに、俺とナキの共闘関係は成立する。
俺達は、共に魔王を打倒するため今この時に立ち上がったのだった。
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