第5話 ダークエルフの誘い!その正体!

 清老頭。

 一と九の呪文石のみで構成される役満デススペル

 48300点の直撃をくらい、ザドリエは一瞬で一位の座から陥落、ハコになった。


「なっ!」

「なっ!?」

「なんだとおおおおおっ!?」


 俺、ゴブリン、そして観戦していた者達は皆驚愕!

 役満デススペルに振り込んだ当の本人であるザドリエは、魔雀術によるダメージを受け、建物の壁に向かって吹っ飛んでいた。


「ふんっ……ゴミ手ゴミ手と、油断するからよ。バカね」


 直後、決闘空間の周りにいた見物人達からは歓声があがる!


「うおおおおおっ! イカサマ和了のザドリエが! 役満デススペルに振り込んだあああ!」


「そ、そんな……」


 ザドリエの腰ぎんちゃくをしていたゴブリンがその場に崩れ落ち。


「君、すごいんだな……」


 幾人もの魔族から賞賛の声が飛んで来る中、そんな言葉をナキに告げた。

 すると。


「そんなことより、私について来て」


 彼女は、俺の手をぐいと引っ張り、雀巣じゃんそうの奥へと進んだ。



 雀巣の奥は薄暗く、まるで牢屋を思わせる。

 ナキに連れられて歩く通路も狭く、二人で並んで進むにはつらい。

 だが、そんな中を――。


「お、おいっ」

「…………」


 ナキは一声も発さず、黙って俺を連れ歩いた。

 すると、彼女の進む先に小さなドアが現れる。

 普段使いするには不便そうなドアだが、ナキはそのドアを開き――。


「うおっ」


 場所がひらけた瞬間、俺をそこへ放り出した。


「さて、ここなら誰にも邪魔されないわね」


 よろめく俺に対して特に謝罪の言葉もなく、彼女は一人愉快そうにニヤリと笑みを浮かべ。


「貴方、魔王に興味はないかしら?」


 そんな……誘いとも思えない誘いを口にした。


 魔王に、興味はないかだって?

 一瞬、自分の耳を疑った。

 しかし、ナキの表情は真剣そのもので、冗談を言っている感じはない。

 だから――。


「ああ、そうか。魔王を倒すことに興味はないかって意味か?」


 俺は、彼女の言葉を自分なりに解釈してみた。

 だが。


「少し違うわね。私、あんたに次の魔王になってもらいたいの」


 彼女の真意は冗談にしか聞こえないものだった。


「いやいやいや! ちょっと待て」

「なによ?」

「俺は今こそ魔王に負けて雀奴隷になってるが、これでも元勇者だぞ?」

「だから?」


 きょとんと首を傾げるナキに、俺は前のめって再度告げる。


「打倒魔王の話を振って来るのはわかる。だが、その後魔王にならないかと誘うのはどうなんだ?」

「なによ? 同じことでしょう? 魔族は強い者に従うのよ? 魔王を倒したなら、そいつが次の魔王になるのは当然じゃない」


「いやいや、だから俺は魔王になる気はないんだって!」

「……つまり、自分が魔王を倒した暁には魔族全員を皆殺しにするってこと!? まあ、現魔王以上の鬼畜じゃないっ! 王の責務を放棄する気っ?」


「だから! どうしてそうなる!」

「あら? そういう話じゃないの? 民がいなければ王は生まれない的な」


 得心がいかない様子のナキから目をそらし、俺は「はぁ」と溜息をこぼす。


「俺は元々、魔王を倒した後は自分の国の姫様に全てを任せる気でいたんだよ」

「なんだ……勇者なんてやってるからどんな奴かと思えば、欲がないのね」

「王って身分が性に合わないだけさ」


 真意を隠したいがために口を衝いて出た言葉。

 それを聞くとナキはどこか落胆したように俺から目を逸らした。

 しかし。


「まあ、いいわ。欲のなさ、志の低さには目をつむりましょう。」


 彼女は気持ちを切り替えるようにつぶやいた後。


「私にとっては魔王と敵対する意思があるってだけで貴重だもの」


 不敵な笑みを浮かべ、ぎらりと野心に瞳を光らせて俺に手を差し出す。


「あなた、私と共闘なさい。そしたら、もう一度魔王と戦うチャンスをあげるわ」


 自信に満ちた誘いの言葉。

 正直、魅力的な誘いだと思わないでもない。

 だが――。


「いや……やめておくよ」


 痛めつけられた犬のようにうなだれながら、俺は首を振った。


「君がどこまで知っているのかは知らないが、魔王の恐ろしさを俺はこの身で味わった。呼吸をするように役満をあがる力。まともにやって勝てる相手じゃない……しかも、元の俺ならともかく今の俺は雀奴隷に堕とされた身だ。並の魔族を相手にたったの一度も攻撃発動条件成立テンパイできない。こんな状態で、魔王に勝てると思う程俺は馬鹿じゃないさ」


 情けない答えだ。

 心の中で自分を罵倒し、俯瞰的に己自身を見つめる。

 けれど。


「なんだ、そんなこと?」


 ナキは些末なことだとばかりに肩をすくめ、落胆でも、失望でもなく、呆れからくる視線を俺に向けた。


「そんなことって……致命的だろう? このハンデ雀奴隷は」

「そんなことないわよ? あなた、勘違いしてない?」

「何を?」

「雀奴隷でも、普通に魔雀で勝てるのよ? だって、私も雀奴隷だもの」


 この彼女の一言は、失意にのまれ、敗北に身を染め切った俺が飛びつくには十分すぎる餌だった。

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