ゴミあがりのダークエルフ

第2話 オークのザドリエ、怒涛のイカサマ連続和了


 魔王の統べる王国『牌魔国』には奴隷制度がある。

 奴隷となるのは大抵は人間や下級の魔族、あるいは人間と魔族のハーフと言った種族だ。

 そして、魔王との戦いに敗れた俺は奴隷――それも雀奴隷としての生活を余儀なくされていた。


 雀奴隷とはいわばサンドバック。

 奴隷同士で殺し合いを演じさせる剣闘奴隷とは違い魔雀マージャン術——一種の攻撃魔法をぶつけ、鬱憤を発散させるための奴隷だ。


「グハハハハ! 弱い、弱すぎるぞお! 何が元勇者だ! これじゃあスライムの一匹さえ倒して来たかどうかも怪しいなあ!」


 豪快に笑って俺を罵倒するのは牌魔国に住むオークのザドリエ。

 彼は呪文石を展開し、容赦なく攻撃魔術を発動させる。


「リーチ平和一盃口ドラ6! 16000!」

「ぐあっ」


 雀奴隷はあくまで痛めつけるのが目的だ。

 使用される魔雀術も威力は制限されている。

 とはいえ。


「――ぐっ、ううぅっ……」


 呪文石と呼ばれる魔力の抽出源。

 無数の組み合わせ――役と呼ばれる攻撃魔法を発動させる。


 これをぶつけられるというのは、ひどく痛い。


「はぁ……はぁ……い、いてぇ」


 つまるところ、これは拷問なんだ。


 既に何度も攻撃を受け、体のあちこちがボロボロだった。

 自然と痛みで表情が歪む俺を、ザドリエの取り巻きであるゴブリンがあざ笑う。


「おいおい、どうした元勇者。もうしまいか? これまで一度もあがれてないじゃないか」


 その言葉は真実だった。

 だが――俺は歯を食いしばり、イカサマをしておいて何をと思う。


 魔雀はいわば呪文石で攻撃魔法を発動させ合うノーガードの殴り合いだ。

 しかし、一方でどれだけ強いものであっても和了率は3割を超えるのがやっとだと言われている。

 まあ、それは東風戦という4人での決闘スタイルでの話だ。

 つまり、三人での決闘スタイルである三魔や二人での直接対決であれば……通常ならば和了率は東風戦と比べて


 だが、俺はこれまで、奴らが言うように三魔戦で30回ほどの対戦を経て、たったの一度もあがれていない。

 それどころか、一度も攻撃発動条件成立テンパイすらしていなかったのだ。


「おら、どうした? 立てよ元勇者。もう一度だ」


 腕を引かれ、無理やりに立たされる。

 俺は再び、勝ち目のない決闘空間へと引きずり込まれようとしていた。

 しかし――。


「まったく……見てられないわね」


 吐き捨てるような冷たい声が聞こえ、俺は視線を移す。

 すると、そこには少女の姿をしたダークエルフが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る