神様

家が見えてきた

この家の回りはコンクリートの柵だけで門が開けっ放し

つまり門扉がない

広めの庭には自由に出入り出来る


鏑木部長はここまで来る最中に何故私を襲わなかったのだろう

殺れそうな場所がなかったのか?

いや、私から見てもこの茂みなら殺れそうって場所はいくつもあった

ここで車が止まるんじゃないか

心臓のほうが止まりそうになりかけた時が何度もあった

でも襲ってこない

もしかしたら鏑木部長…

心の中で葛藤しているのかもしれない

殺りたいけど殺れない

行動に移せないのか

だったらこっちもまだ勝算がある

情に訴えかけてみるか……


時計に目をやる

16時20分

会社を出てからもうすぐ2時間

目前に迫る無人の家

門の中に入ったら終わりだ

こうなったら一か八かどうせ殺されるなら悪あがきしてやる


「鏑木部長…」

「……」

「なんか喉が渇いちゃいました。えへへ、途中に自販機ありましたよね。帰り買って良いですか?財布無いんでお金貸してもらって良いですか?へへへ…」

「……」


かすれてる声、本当に喉がカラカラだ

なのに私ったらこんな時にへらへらしてる

それに金奪おうって奴に金貸してとか言っちゃってるし

私、別に何とも思ってませんからアピールまでしてわざとらしいにも程がある

私の問いに答える訳もなく鏑木部長は無言のままついに門の中に車が入っていく

体に力が入り身構える私


「ん?」

鏑木部長が声を漏らす

見つめている先にはワゴン車が止まってる

私もワゴン車を見る

何か書いてある






…山田塗装!!

下職の塗装屋のじいさんの車だ!

嘘!!何で?ここに?

まさか二人で待ち合わせ?

まさかの共犯者?

でもそうだったら鏑木部長が「ん?」なんて不思議そうに言うはずない

その時遂に車が止まった!

咄嗟に巾着袋を鏑木部長の膝の上に投げた

お互いに目が合う

「どうぞ…」

そう言いながら私は必死で車のドアを開ける


………

開いた!!!!!!

急いで車を降りた

そのまま山田塗装の車に向かって歩き出す

膝がガクガクしてて上手く歩けない…が平静を装いぎこちなく歩く

走ったらいけない走ったら追いかけられる

…ってそれはけもののことか?

いや奴は獣と一緒だ

後ろを振り返らずに山田のじいさんを探す


いた!

家の外壁にペンキを塗っている

助かったぁ~

山田様マジ神!!後光がさしてみえるよ

「やーまーだーさーぁーん」

叫ぶと振り返りこっちを見て手をあげた

私は思わず走り出してまた叫んだ

「けーたーい!かしてくださーぁぁい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る