第70話 第四の選択肢
氷山。
吹雪の中、狩りを行う。
エイプリルとの夜狩りだ。
夜間の魔物強化には警戒しつつ。
相変わらず、普通の広葉樹の森から、氷山へと無理がある変化だ。
でも、クエストフィールドはそういうものだ。
グルルルル
ホワイトウルフ。
群れで行動し、吹雪のブレスを吐く。
そして素早い。
ランク3推奨の敵だ。
ゴウッ
先手必勝。
俺が投擲した槍が一体倒す。
ウルフが散開、バラバラに向かって来る。
ゴッ
近づいて来たウルフを、エイプリルが行使したファイアーボールの海が迎える。
ウルフが焦げて地面に横たわる。
俺が突進。
一体撃破。
数体が噛み付いてくる。
エイプリルの回復が飛び、傷が治る。
そのまま次のウルフを屠る。
ウルフが飛び去り、距離を取る。
その調子で群れを撃破した。
「ナイスアシスト」
エイプリルに手を差し出す。
エイプリルが手を合わせ、ハイタッチ。
やはりエイプリルとは息が合う。
エイプリルが採取する間に、次の獲物を探す。
「次はあっちにスノーベアが3体」
「なら、潜伏して近づき、先制を仕掛けるわ」
「了解」
次々に狩りを行い、2時間程全力狩り。
それなりに稼げた。
パチッ
エイプリルが手早く、肉を焼く。
「お疲れ様、エイプリル」
「お疲れ様」
微笑み、焼いた肉を差し出すエイプリル。
「有難う」
焼いた肉を食べていると、エイプリルが切り出す。
「あの2人、どうするの?いつまでに結論を出すとか決めないと、ずるずるいつまでもいくわ?」
耳が痛い。
確かに、逃げている今は最低だと思う。
エイプリルにも迷惑をかけているし。
「別に私は良いのよ?何なら、一生付き合ってあげるわ?でも、駄目なら駄目で、リパーやジリアンは別の男性探す必要もあるかも知れないし」
エイプリルの寛大さが心に染みる。
そして、リパーやジリアンは、ずるずる先延ばしには出来ない。
俺はどうしたいのか・・・
考えてみる。
リパーと付き合うのか・・・ジリアンと付き合うのか・・・アテナ様にはいい顔されないだろうけど、2人と付き合うのか・・・
2人・・・凄くもやもやする。
不意に、エイプリルの顔が間近にあった。
心臓が破裂しそうになる。
「どうしたの?」
エイプリルが尋ねる。
「いや、ちょっとリパーやジリアンと付き合ったら、と考えて、想像してみてて」
「そうね、良く考えないとね」
「そうしたらエイプリルの可愛い顔が間近にあったせいで、かなり動揺しただけだよ」
「そう」
エイプリルがそっぽ向いてしまった。
呆れたのだろう。
「有難う、エイプリル。良く考えてみるよ・・・でも、何だろう。どっちと付き合っても、両方と付き合っても・・・何かもやもやする気がするんだ」
「いっそ、両方と付き合わないって選択肢も有るわ。後悔しない選択をする事ね」
「そう・・・だよな・・・」
「そうなっても、恋人のふりは続けてあげるわ。それが不要になるまで、ね」
「有難う、エイプリル。本当に有り難いよ」
本当に、エイプリルの友情には感謝しかない。
こうやっていられるのは、本当に心地良い。
でもなぜだろう。
何かの歯車が一部噛み合わない・・・そんな違和感。
エイプリルと目が合う。
やはり・・・可愛い。
ずっとこんな関係が・・・
偽りの恋人?
むしろなりたい関係は・・・
いや、それは不可能だ。
もし偽りの関係、それを踏み越えようとすれば・・・待っているのは困惑、拒絶、そして今の関係の喪失・・・
それくらい、俺にも理解出来るのだから。
「どうしたの、ディーン?」
エイプリルがキョトンとして覗き込んでいる。
「ごめん、エイプリルが可愛くて見惚れていたんだ」
「ふふ、有難う」
立ち上がり、エイプリルに手を差し伸べる。
エイプリルがふらっとバランスを崩したので、抱き止めて支える。
エイプリルは全身が汗ばみ、身体が僅かに震えている。
力も入り辛いようだ。
顔も赤い気がする。
火を焚いているとはいえ、周りは寒いのに・・・体調が悪いのだろう。
一方で、こちらの激しい心音が聞かれていないか、焦りを覚える。
照れて顔が赤くなっている自覚がある。
「今日はこのあたりで引き上げよう」
「そうね」
エイプリルの体調が悪そうだ。
きっと、無理をして付き合ってくれたのだろう。
エイプリルの友情には本当に感謝すると共に・・・友人ではない関係を夢想してしまう。
いや、今は戻ろう。
「エイプリル、今日も付き合ってくれて有難う。エイプリルとは、ずっと一緒にいたいよ」
「そうね、私もよ。一生付き合ってあげるわ」
偽りのままでいれば、ずっとこうしていられる。
リパーとジリアン。
そちらへの回答は・・・固まりつつあった。
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