第69話 専業ゲーマー

「駄目よ」


「何故ですか!」


「貴方はディーンの彼女でもないし、ネイムレス様のクランのメンバーでもないから」


「なら、僕なら良いよね」


ジリアンが進み出る。

良い訳無いだろ。


「駄目」


俺が答える。


「不潔です・・・二人で同じ所に住んで・・・何をする気ですか!」


隠す必要も無いか。

仕方無い、正直に言おう。


「夜には狩りに行くな。言いにくいんだが・・・お前達と組んで狩りをしていると、レベルの上がりが異常に遅いんだ。恐らく、レベル差のせいだな。なので、レベルが追いつくまでちょっと待ってて欲しい」


「う・・・」


リパーが呻く。


「狩りか・・・狩りね」


ジリアンが半眼で言う。

ジリアンもレベル上げしたかったんだな・・・すまん。


「リパー、ジリアン、別にレベル上げ控えるとかはしなくていい」


「・・・レベル上げは最近限界を感じているよ。最近の来訪者達、凄く強いし、レベルの上がりも早いんだ。みんな経験値アップとか、職業スロット追加、基本ステータスボーナスや、攻撃力ボーナス・・・便利なスキルばかり持ってて、ずるい」


スキルの件は、俺とエイプリルの成果だ。

スキル選択の際、やりたい事を選択肢で選んだ後、特にお勧めなスキルを理由付きで強調表示。

職業スロット追加はどんな選択肢を選んでもお勧めされる。


一方、リパーとジリアンの強さだが・・・実は相当強いし、レベル上げも有利だ。

理由は、神器とも言うべき、破格の性能を持った武器。

そして、主神がクランに設定した経験値5倍。

もしこれを転生特典で補おうとすると、数千ポイントでも足りない。


経験値1.5倍、職業スロット+1、それぞれ100ポイント。

経験値2倍は400ポイント、3倍で1600ポイント。

ちなみに、職業スロット+2は3000ポイントだ。

大体の転生時のポイントが200くらいなので、経験値1.5倍、職業スロット2個の来訪者が増加する。


じゃあ何故、リパーとジリアンがレベル上げ速度で負けるのか・・・それは、純粋な才能の差だ。

転生して来る来訪者は、規約に同意したら死ぬと明示されたのにやって来た猛者ばかり。

レベル上げの効率は、どのジョブがどの特性を、どのクエストが得か、睡眠時間はどれだけ削れるか・・・そういった事を突き詰めるプロだ。

俺やエイプリルもかなりのものだが、所詮、兼業ゲーマー。

専業ゲーマーには勝てない。


加えて、リパーもジリアンもソロをあまりしない。

リパーは調べ物をしたり図書館に入り浸り、ジリアンはひたすらみんなと交流。

誘われる事も多いそうだが、レベル上げにはあまり誘われない。


「昼間は、みんなと組む事にするわ。でも、夜はディーンと2人で狩るわ?」


エイプリルの提案。


「そうだな」


俺も頷く。

これで満足だろう。

除け者にされた感じで嫌だったんだよな。


「それは嬉しいけど、違うんです!」


リパーが食い下がる。

何・・・だと・・・?


「エイプリルが同じ屋根の下で過ごしてるのはどうかって言ってるんだよ。さる筋から、2人が今日何をしようとしているか聞いてるんだからね!」


今日は普通に狩りに行く予定だ。

これが、ゲーム予定ならドキッとするが。

それに、別にエイプリルの部屋がアジトにあるって言っても、実はそこまで気にすることではない。

夜エイプリルとだべっていて、そのまま俺の部屋でそのまま寝る事が多いからだ。

普段着等、殆どは俺の部屋に置いてある。

わざわざエイプリル用のベッドは用意したが、それすら使わない事も多い。

そのあたりをちゃんと伝えれば、リパーやジリアンも拍子抜けして安心すると思うのだが・・・

ここは恋人生活を偽装する為、エイプリルが部屋を持っている、を強調しておく。


神々の件がなければ、リパー達に部屋を与えても良いのだけど。

ちなみに、オーディンとアルテミスの部屋は既にある。


「ニール様は、うちのクランのアジトに住んでおられるし、だからこそエイプリルもここに住める。タケル様やテミス様と相談し、此処で住む許可を貰えば、ネイムレス様に掛け合うよ」


俺が2人に告げる。

あの2柱の判断に任せよう。


「・・・分かりました」


その正しさを認め、リパーが引き下がる。


「うー・・・」


涙目で上目遣いに見てくるジリアン。

く・・・


「駄目、テミス様に聞いてきて」


エイプリルがばっさり切る。

2人はしぶしぶといった様子で帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る