第65話 蟻の巣

リアルでもレベルを上げないと。

蟻の巣掃討作戦。


「このクエストは、低ランクの場合は浅い箇所で、働き蟻を倒してその数で評価、高ランクなら、女王を倒して巣を壊滅、そういう住み分けができるクエストだよ」


ジリアンが解説する。


「敵の数が多いので、レベル上げに向いてるんです」


リパーが続ける。

確かに便利だ。


あ、二人が褒めてオーラを。

そっと手を伸ばそうとすると、エイプリルがちょん、とつつく。

・・・こういうところか。


「良さそうだな、有難う」


身体接触は避け、口頭で伝える。

ジリアンはニコッと微笑み、リパーはぷくーっとふくれる。


ギアア


早速蟻だ。


ザシュッ


魔力を纏わせた槍で、蟻を貫く。

柔い。


「・・・それ兵隊蟻で、固い上に強いから、ランク2なら逃げるのが推奨なんだけど・・・」


ジリアンがうろんな目で言う。


「この槍は、硬いものには強いからね・・・」


ガサッ


さっきよりも大きな蟻が来る。

しかも銀色の蟻。


「不味いですね。装甲軍曹蟻、推奨レベルはランク3の300程。魔法や攻撃が通じにくい装甲に、素早い動き。逃げてこの道は避けた方が良さそうです」


言う間にも迫ってくる。

逃げ切れるかな・・・?


「隆起せよ」


エイプリルが魔法を行使。


ガッ


土塊が隆起する。


ガゴッ


しかし、蟻は土塊を壊して直進。

ダイナミック。


「やっ!」


チャージした矢をリパーが放つ。


ガッ


空気を震わせて飛翔した矢が蟻の頭に命中したが、弾いてそのまま直進する。


「せいっ!」


ジリアンが蟻の頭部に鎚を振り下ろすが、


ギアッ


振り上げた頭に打ち付けられ、空中を舞うジリアン。

・・・強いな。


「喰らえ!」


上部から槍を突き降ろす。


カッ


刺さらない?!

槍はその体を滑るように、地面に刺さる。

蟻の脚が振り上げられ・・・


ギイイイイイイイイイイイ


突如蟻が悲鳴を上げて崩れ去る。

体の一部がぽっかり、ない。

破壊不可能な筈のダンジョンにまで穴が開いている。


エイプリルだ。


「奥の手、チャージにチャージを重ねた魔法・・・ストックしてある分しか使えないから、あてにはしないで」


告げる。

・・・いや、多分今のミョルニルだと思う・・・


「有り難う、助かったよエイプリル」


エイプリルをそっと抱きしめる。

・・・彼女のふりをしてもらってるし良いんだよね。

エイプリルも手を回して受け入れてくれているし。


「あ、エイプリルさんだけずるい!」


「うー」


リパーとジリアンから抗議が上がる。

・・・無理に仲が良いところを見せる必要も無いか。


「とりあえず、分岐の所まで戻りましょう。此処は危険よ」


エイプリルのその提案に反対する者はいない。

分岐の所まで戻り、別の道へ行く。


そこからは、低ランクに相応しい蟻がそれなりに湧いた。

だが・・・


「低ランクの敵をたくさん倒すより、ランクの高い敵の方が得られる経験値が多い。さっきの兵隊蟻を倒したいな」


俺が呟くと、


「・・・僕やリパーでも、働き蟻倒すのに数発攻撃入れる必要があるんだけど・・・」


ジリアンが呻く。


「ディーンさん強すぎます・・・」


リパーがぷくーっと膨れながら言う。


「私の魔法も、数発撃たないと倒せないわ?」


エイプリルが淡々と言う。


「・・・この槍のせいかあ」


流石オーディンのくれた槍。


「武器はみんな強い武器使っていると思うのだけどね」


ジリアンが自分の鎚を掲げる。


ギギギ


働き蟻が5体程、列を作ってこちらに向かってくる。


シュッ


俺が投げた槍が、


ザシュシュッ


一列に貫き、5体倒す。


「・・・確かに、ディーンは別の狩り場が良さそうだね」


ジリアンが呻く。


「それ経験値あまり入ってないの?」


エイプリルが尋ねる。


「うむ・・・兵隊蟻はそれなりに入ったけど、こいつらは殆ど入らないかな」


ついでに経験値固定制にして来たら良かったかな。

相性が良い敵の場合、経験値が入りづらい。


「もう少し奥に行ってみるよ」


俺はそう言い、奥へ歩き出す。


「付き合うわ」


エイプリルも続く。


「怖い・・・」


そっとリパーが抱きついてくる。

エイプリルがぺりっと剥がし、ジリアンにくっつける。


「危険だから、僕が先頭に行くよ。とは言え、危険だから、女王を倒すくらいしかしないからね」


女王の部屋とか近づかないからな?


少し進むと兵隊蟻が増えてきた。

ジリアンが盾で防ぎ、他のメンバーでとどめを刺すやり方で進める。

俺は遊撃させて貰っている。


蟻からも素材を剥げる。

素材はそれなりの大きさ、重さなので、普通の冒険者なら無視するか、すぐ帰還する事になるが。

リパーとエイプリルが倉庫空間持ちなので、その辺りは楽だ。


「ここは・・・卵の部屋?」


俺の呟きに、


「気をつけて。此処は装甲軍曹蟻が巡回している」


ジリアンが警告する。


「じゃあ、立ち去った方が良いな」


素直に立ち去る。

早くランク3になって、普通に立ち回れるようになりたいものだ。


「あ、宝箱です」


リパーが宝箱に駆け寄る。

少し格闘し・・・綺麗な水晶のランプを取り出す。


「高く売れそうなランプですね。また換金して配りますね」


リパーが収納空間に宝をしまう。

今日は宝箱が3つ。

宝箱に触れる機会が増えたのも、インスタンスダンジョンの恩恵だ。


適当に兵隊蟻を狩り、帰還。

レベルは・・・あまり変わっていない。

俺の狩り場には向いていないようだ。


エイプリルに視線を送るが、首を振る。

二人で激しい所に行き、追い付いた方が良いかな。

ゲームのランク上げている場合じゃ無さそうだ。


「やった、40もレベル上がった」


リパーが喜んでいる。


「36くらいかなあ」


ジリアンが残念そうに言う。

く・・・俺達の方がレベル低いのに・・・待てよ。

まさか、またクランの経験値アップ設定されてるんじゃ。


後で確認に行くか。


外に出て、クエストカウンターに報告。

報酬を受け取る。


「みんな、お疲れ様」


みんなに声をかける。


「はい、お疲れ様です」


リパーが嬉しそうに微笑む。


「また誘ってよ」


ジリアンが嬉しそうに言う。


「お疲れ様、またね」


エイプリルが笑顔で言う。

エイプリルとは、また後で会うけど。

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