第63話 コミュ力

「・・・何でディーンさんまで驚いているんですか?」


リパーが半眼で尋ねる。


「私が言ってなかったもの。転生前の繋がりを持ち出して恋愛を有利に進めようとするのはどうかと思うわ?」


・・・本当だろうか。

心当たりは一切ない。

5年以上前・・・27歳前後の頃・・・まさか。


「・・・お嬢?」


俺がぽそっと呟くと、


「ん、正解。まさかディーンがゲーム好きとは、当時は知らなかったわ?」


「・・・会社では必死に隠していたからな。俺もエイプリルがゲーム好きとは、当時かけらも思わなかったよ」


エイプリルがどうやって転生前の俺に行き着いたのか・・・って、前神々から神威授かった時、思いっきり転生前の名前言われてるじゃん。


「ディーンがゲーム好きだと分かっていれば、転生前にアプローチしてたのに・・・付き合うのが遅くなっちゃったね?」


覗き込むエイプリル。

可愛い・・・

演技上手すぎだろう。

必死に自制する。


「こちらからアプローチしていたさ。もっと良く見ていれば良かったよ」


「ふふ、私の猫被りを見破るのは難しいと思うわ?これでも、演技には自信が有るの」


そうでしょうね!

こっちはさっきから心臓がばくばく言って、平静装うのが大変ですよ!


リパーとジリアンが死んだ魚の目になっている。


「そういう訳で、ディーンも私も、少し時間が欲しいの。それでこの話はおしまい、ね?」


エイプリルがしめる。


「「・・・はい」」


二人とも納得してくれたようだ。

すまん。


--


「このクエストは、水竜の卵の確保、水竜の巣の調査、水竜の生け捕り、水竜の撃破・・・何かをすれば達成にはなるけど、水竜の巣を調査し、卵を確保するのが一番ポイントが高いらしい」


ジリアンの解説。

本当にジリアンは人脈が広い。


「探知、に成功しました。この葉は、水竜により食べられたようです。折れている木々を追えば巣の場所が分かりそうです」


リパーが言う。

ダンジョン探索でもレンジャー職は有用であったが、現在は採取に探索に必須の職業となっている。


ヒュッ


巨大な大蛇が樹上から落ちてきて、リパーに襲いかかる。


ゴスッ


俺が投擲した、魔力を纏わせた槍が、大蛇の頭を貫き、近くの大樹に縫い付ける。


「雷よ!」


エイプリルの放った雷が、大蛇を蹂躙する。


「せいっ!」


ジリアンの一撃が、大蛇の頭部を潰す。


「はわ・・・」


へたり込むリパー。


「大丈夫か、リパー?」


支えてやると、俺の体をよじ登るように立ち上がる。


「はい・・・有り難うございます・・・」


リパーはちらっとエイプリルを見、残念そうな様子で俺から離れる。


リザードマン、水牛等を退け、巣穴に着く。

中には・・・水竜の成竜が見える。


「気をつけよう。あいつは適正レベルがランク3だ。俺達では勝てない」


俺が警告を発する。

やり過ごし、巣穴から居なくなった隙に巣穴の調査をするしかない。


「ちょっと戦ってみたいかも・・・」


ジリアンが言う。


「駄目」


「う・・・」


上目遣い、涙目で見てくるジリアン。

・・・く・・・可愛いじゃないか。


「だ・・・駄目」


「うー・・・」


「し・・・仕方が・・・」


「駄目」


エイプリルが声を被せる。

・・・はっ、危ない。


「とにかく、巣穴から出てくるのを待つぞ」


「でも、水竜って、交代制で巣穴を守るから、巣穴から出ていかないですよ?」


リパーがきょとん、として言う。

・・・何・・・だと・・・


「誰だこのクエスト受けたの」


「僕だね」


ジリアンがキリッとして言う。

おまえかー。

まあ、ジリアンの人脈が広いからって、任せきってた俺の責任だな。


「・・・囮を使っておびき出すか、倒すか・・・そのまま引き返すか・・・ね」


エイプリルが言う。


「あの・・・」


リパーがくいくい、と袖を引っ張る。


「既に役目を終えて放棄された巣穴の調査でも、達成扱いになるみたいです」


成る程、それは良い情報だ。


「良し、それでいこう。有り難う、リパー」


リパーがじっと見てくるので、撫でてやると目を細めて喜ぶ。

可愛いなあ。


今度は、食べた残骸から、とか、折れた木々からは辿れない。


「感知」


エイプリルが魔法を行使。

巣穴っぽく、かつ、今水竜が居ない場所を探す・・・

高難易度なのだろう。

エイプリルの額に汗が流れる。


「あっちだってさ」


不意にジリアンが戻ってきて言う。

キミどこ行ってたの?


ジリアンの案内に従って歩くと、放棄された巣。


「ジリアン凄いな、どうやったんだ?」


アルテミスが教えたのだろうか?

ジリアンがじっとこちらを上目遣いで見ている・・・まさか。


そっと頭を撫でると、嬉しそうに腕に抱き付いてきた。

気づいてないと思うけど、思いっきり当たってるからな。


「で、どうやってこの巣を知ったんだ?」


「ん?聞いたら普通に教えてくれたけど?」


アルテミス、だだ甘だな。


「あの水竜の夫婦に」


「お前何やってんの?!」


それコミュ力高いとかそういう話じゃないよね?!


「うう・・・ディーンにお前って言われたあ・・・」


「あ、すまん・・・」


「お前って言われた・・・えへへ」


「嬉しいの?!」

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