第37話 青年

ここは街からあまり離れていない場所だ。

上位のランクの者達が街から離れた場所を選び、下位のランクの者達・・・といってもランク3だけど、が街の近くの物を処理しているらしい。

なので、ちょくちょく他のPTと会う。


街道の向こうから、戦いは苦手そうな青年が歩いてくる。


「君達、ちょっと良いですか?」


「はい?」


俺が応える。

こうやって冒険者同士で情報を交換し合うのも協力だ。


〈オーディン・・・聞こえますか・・・〉


ん?

アテナ様の声?


〈その者は・・・アスモデウスの部下、ストラスです・・・〉


えっ、悪魔?


〈かなりの高位な悪魔なので、正体を看破するのは現実的では有りません。知らない振りをして下さい〉


何で教えたの?!


「どうしました?」


青年が小首を傾げる。

アテナとのやりで心の中で突っ込んでいたのが、不自然に見えたのだろう。

見ると、エイプリルも微妙な顔をしている。

エイプリルも教えられてそうだ。


「いえ・・・ところで、何の用でしょうか?」


誤魔化しつつ、尋ねる。


「はい、先程から見ていたのですが・・・先程から、どうやって魔石碑の場所を探しているのですか?」


これは・・・悪魔は、冒険者ギルドや神々が調査している事を知らない・・・?

だとすると情報を流すと不味い・・・いやしかし、目の前にいるのは無害な青年だ。

むしろ怪しんで情報を出し渋った方がおかしいか。


「ギルドで魔石碑破壊のクエストを受けると、場所を書いた地図をくれるのですよ」


正直に話す。


「地図・・・私も貰いましたが、これにはない魔石碑を破壊してましたよね?しかも、探すわけでも無く、真っ直ぐに向かっている気がしましたが」


・・・何だと・・・?


「お嬢さん、その地図、見せて貰っても良いですか?」


青年がリパーに近づくと・・・いつの間にか、青年が地図を持っている。

リパーも警戒していた筈だが、ごく自然に取られてしまっていた。


「赤丸、は私の地図と同じですね・・・この青い点は何ですか?」


びくっ


リパーが汗を流し、目が泳ぐ・・・

不審な態度・・・といっても、青年の正体に気付いているから、というよりは、何か青い丸に秘密が・・・そうか、オーディンから聞いたのか。

だとすると、エイプリルでも見つけられなく、ギルドでも分からない・・・しかも高度な偽装がかかった魔石碑をピンポイントで案内したのも説明がつく。

だが、主神の名前を出すのは、いくらリパーでもするまい・・・かといってこのままでは怪しまれ・・・


「私のスキルで見つけて、教えておいたのよ。申し訳ないけど、スキルの内容は秘密にさせて頂くわ」


スキルなら、常識外の事を出来ても不思議ではない。

そして、冒険者にとって、スキルは可能なら秘匿すべき物だ。

この言い訳は・・・上手い。


「ふむ・・・スキルなら納得ですね・・・あ、お借りして有り難うございました」


ストラスがリパーに地図を返す。


〈魔石碑のマークの位置がずらされているので、後でオーディンに描き直して貰って下さい〉


言われてもなあ。

と言うか、俺が行かなくても、リパーがアジトに戻った時点で勝手にやるだろう。


「貴様、何をしている!」


ふいに声がした。

あれは・・・白銀騎士姫プリンセスナイトヴェルローズ。

このあたりで唯一のランク5。

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