第38話 神威

「これはこれは、ヴェルローズさん」


「貴様は誰だ?」


「私はエリアンと言います。魔石碑探索のクエストを受け、マップに記して行く作業を担当しています」


ストラスがにこやかに答える。


「貴様からは何か嫌な気配を感じる。人間ではないのではないか?」


分かるのか。

流石ランク5だ。


「おやおや・・・流石白銀騎士姫プリンセスナイト、まさか見抜かれるとは思いませんでした」


「えっ」


リパーが驚きの声を上げる。

俺とエイプリルも、驚いた演技をする。

・・・俺大根役者なんだけど。


「くくく・・・良いですね、貴方達のその反応。すっかり冒険者だと思い込んでいたようですね。こうやって正体を明かす瞬間は何度見ても楽しいものです。特にそこの二人」


ストラスがクスクスと笑う。

二人・・・リパーとジリアンだろう。

俺とエイプリルは知ってたからなあ・・・不自然な演技になってしまった。


「そこの二人・・・良いですよ・・・その表情!」


おかしいな・・・視線が俺とエイプリルに行っている。

まさか俺とエイプリル・・・?


「心配するな、オーディン殿。私が来たからには、其方等を護って見せよう」


シャキ


ヴェルローズが剣を抜く。


「やめておきなさい、私は強い。ランク5の貴方でも勝てませんよ」


ストラスがクスクス笑う。


「集え、冷気よ・・・万物凍る九つの薔薇ダイヤモンドナインローズ!」


ヴェルローズの周りに、氷の薔薇が咲き乱れる。

そして、蒼い光を纏い、ストラスに斬りつける。

無数の薔薇は退路を塞ぎ・・・同時に、ヴェルローズに力を与えているようだ。

また、薔薇自体もストラスに纏わり付き、その魔力を、その障壁を、削っていく。

正に攻防一体の奥義。


「効きません」


ストラスが手を振ると、氷の薔薇ごとヴェルローズが飛ばされる。

軽く数メートル飛び、地面に叩きつけられるヴェルローズ。


「大丈夫ですか!」


ジリアンが駆け寄り、治癒の魔法をかける。


ヴェルローズが起き上がると、ジリアンを手で制し、


「貴様・・・何者だ・・・まさかこの技を破るとは・・・」


「良い技ですが、残念ながら力と魔力が私に及びません。もっと精進する事ですね」


クスクス、とストラスが笑う。


「足りないなら・・・高めるまでだ」


ヴェルローズがそう叫ぶと、


「我が神、レティミーシアよ!伏して願い奉る!貴方の力、お貸し下さい!」


空に向かってそう叫んだ。

伏してない。


ゴウッ!


ヴェルローズの体が、光に包まれ・・・そして、恐怖を覚えるほどの力を纏う。

それまでも、十分恐ろしい程の力を見せていたのだが・・・それとは格違いだ。


「これは・・・一体・・・?」


俺は思わず呟く。

スキル?

一定時間、ステータス大幅アップ?


「神威、ですよ」


ストラスが解説するように言う。


「レティミーシア、とか言いましたか?その神の神威は、魔力を2倍にする、といった所でしょうか」


何それ、2倍とか、冗談みたいな性能だ。


「クランに属する者、特に団長は、神の神威を纏う事を許されている場合が多い・・・そしてそれらは圧倒的な力を持ちます。無論、本当に必要な時以外は使ってはなりませんが」


ストラスは、圧倒的な力を見せつけるヴェルローズを前にしても、全く動じた様子がない。


「解説はオーディン殿達へのサービスか?それとも死ぬ前の善行か?貴様は・・・生かしておく訳にはいかない!貴様を・・・倒す!万物凍る九つの薔薇ダイヤモンドナインローズ!」


ヴェルローズが再び氷の薔薇を纏い、ストラスに突進し・・・


ぱこーん


再び飛ばされ、


どしゃあ


地面に落ちる。


「元々桁違いの差があるので、2倍になった所で届きませんよ?」


ほーほー、と喉を鳴らしつつ、首を傾げるストラス。


「ヴェルローズさん!」


ジリアンが駆け寄り、気絶したヴェルローズに回復魔法をかける。


「どうします、貴方達も向かってくるのですか?」


「いや・・・俺達ではお前には敵わない。見逃してくれたら嬉しいかな」


「私も流石に、この力の差でどうこうすると寝覚めが悪いですからね。立ち去らせて貰いますよ。ほーほー」


ストラスはくるり、と踵を返すと、ゆっくりと来た道を戻っていった。


がしっ


リパーがしがみついてくる。


「うう・・・オーディンさん・・・怖かったよおおお・・・」


涙をぼろぼろ流し、見上げてくる。

抱きしめ、背中をさすってやる。


「よしよし、もう大丈夫だ、助かったからな」


・・・この辺に川があったっけなあ・・・ちょっとほかほかしてるぞ。


「・・・あれが・・・本当に強いのね」


エイプリルがうんざりして言う。


「無理ゲーの匂いがするよなあ・・・」


俺も溜息をつく。


ジリアンが、倒れたヴェルローズを背負ってこっちに来た。


「うう・・・すまない・・・」


ヴェルローズがジリアンに謝る。

起きたけど、体が動かないとかだろうか。


「大丈夫ですよ。女の子はみんな軽いですから」


ジリアンがにこっと笑う。

ヴェルローズが赤くなる。


「ヴェルローズさん、助かりました」


俺も、礼を述べておく。


「いや・・・私は結局何も出来なかったさ」


ヴェルローズが悔しそうに言う。


ヴェルローズが無理なら、きっとみんな無理だよなあ・・・

低級神って戦えるのだろうか?


「よし・・・みんな、戻ろう」


俺はそう言うと、ゆっくりと街へ歩き出した。


********


レベル5→ランク5

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