第13話 引き抜き

ダンジョン。

中は異空間と化していて、外から想像出来る大きさと、中の大きさは、圧倒的に違う。

魔物は強く、数は多く、構造も複雑・・・勝手に構造が変わったりはしないけれど。


基本的な世界は、下位の神々で共同で運営されているのだが・・・他世界から人を引っ張ってきたり、世界のルールを構築したり・・・そしてダンジョンといった複雑な仕組みを作ったり・・・こういった部分は、上位の神がその秘蹟を振るい、実現させている。


ダンジョンへの侵入は、冒険者ランク毎に制限されている・・・破ってもペナルティーはないのだけど。

近隣の初心者ダンジョン1階層、ここですら、ランク2が最低条件だ。


ダンジョンとは別に、洞窟もある。

これは自然に出来た物や、人、神が掘った物。

特に時空の歪みもなく、これはダンジョンではない。


「水晶の採掘・・・推奨ランクはランク2ですが、オーディンさんなら大丈夫そうですね」


受付が、ちょっと考えた後そう言った。

俺の後ろには、リパー、エイプリル、ジリアンがいる。


「洞窟はダンジョンではないけれど、強い魔物がいる可能性もある。気をつけて行こう」


俺が言うと、


「了解だよ。後衛の護衛と回復は任せて・・・女の子を危ない目には遭わせないさ」


ジリアンが言う。

頼もしい。


「ううう・・・オーディンさん・・・怖いです・・・」


そろそろややこしいから、変えれるなら自分の名前変えたいなあ・・・

そもそも本体がいるとか思わないだろ。

省略してオーディって呼んでもらうとか・・・


「攻撃なら任せて!」


「あまり派手なのは注意してくれ。ダンジョンと違って、崩落の危険性がある」


「・・・気をつけるわ・・・」


冷や汗を垂らし、目を逸らすエイプリル。


何やら、併設された酒場で揉めている。


「何故仲間を用意出来ないんだ、俺はランク4だぞ?」


「すみません・・・ウルフさんの募集にどなたも応募がなくて・・・」


「ランクを問わないって書いたんだ。ランク1でも良いんだぞ?何故誰も来ない」


「すみません・・・もう少し募集条件を緩めてみるとか・・・」


厳つい顔のおっちゃんが酒場の店員に話しかけている。

ランク4かあ・・・凄いなあ。


「募集条件って言っても、若い女性である事、としか設定していないぞ?」


そんな条件ついてたら誰も応募しないと思うけど。


ふと、こっちを見たウルフが、ずかずかとこっちに向かってくる。


「おい、そこのお前達、見ない顔だな・・・新入りか?俺はランク4にして、超レアのスキルホルダーだ。そこの女、俺が手取り足取り教えてやるぞ?俺のPTに入らないか?」


良くある絡み方ではあるが、ここまでランクに差があるとどうしようもない。

店員に助けを求めるか・・・どうするか・・・


「お断りだね。キミのPTには絶対に入りたくないよ」


ジリアンが前に出てきっぱり告げる。

多分お前は誘われてない。

まあ庇う意味合いだろう。


「お前じゃない、後ろの女2人に言ったんだ」


ウルフが怒鳴る。


リパーが俺の後ろに隠れ、ぎゅっと服を持ってくる。

さて・・・どうするか・・・


「ちょ・・・ウルフさん・・・いけません・・・」


店員が慌てて駆けてきて、ウルフと俺のPTの間に入る。


ウルフは、目にも止まらない速度で店員の腕を掴むと、そのまま引きずり倒した。


「俺は平和に交渉してるだけだ。どうする嬢ちゃん?断るなら、今後不幸な事が起きるかも知れないぜ?」


この二人に手を出して、神が動いたら大変な事になるとは思うけど。


「申し訳ないが、その申し出は受けられません。俺達はランクが近い者同士、ゆっくりやろうと決めているので」


俺が言うと、


「では、こういうのはどうだ?俺とお前で模擬戦を行い、お前が勝ったら今後俺は何もしない。俺が勝ったらその2人は俺のPTに入る」


ランク4と模擬戦とか無茶だろう。


「なら、その模擬戦、私が代わりに受けてやろうか?」


凍えるような声が聞こえる。

ふと見ると、美しい女性騎士が、いつの間にか傍に立っていた。


「き・・・貴様、ヴェルローズ?!」


ウルフが狼狽え、そして・・・


「よ、用事を思い出した。この話はまた今度だ」


そう言って去って行く。

出来たら未来永劫遠慮したいのだけど。


「有り難うございます」


俺が礼を言うと、


「いや、こちらこそ、同じ先輩冒険者として、迷惑をかけたことを謝罪するよ。キミは新人にしては肝が据わっているね」


「有り難うございます」


さて・・・ウルフとやらが何もしてこなければ良いのだけど。

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