5#イノシシが持ってたオレンジ色の風船
野を越え、
川を越え、
林を越え、
空に鼻を突き上げて、雌ダヌキの匂いの気配を探し、
土に鼻をまさぐって、雌ダヌキの匂いの気配を探し、
溜め糞、
ぬた場、
「やあイノシシ君。雌ダヌキ見た?」
タヌキのポクは、通りすがりのイノシシのブッピに声をかけた。
「あっ!雌ダヌキでしょ?あんたが探してたの。」
「本当?!どこ?どこ?どこなの?」
ポクは目を見開いた。
「雌ダヌキなら、あの麓にいたけど。」
「で、その雌ダヌキはオレンジ色の風船を追いかけてなかった?」
タヌキのポクは、イノシシのブッピに聞いた。
すると、
「オレンジ色の風船って、これ?」
イノシシのブッピは、萎んだ風船に息を吹き込んだ。
「萎ませ・・・ちゃったの?」
タヌキのポクは、卒倒した。
「んにゃ!あそこの麓に初めから萎んでた風船だけど?」
「本当?あっ!」
タヌキのポクの心は、突然ドクンとなった。
・・・この風船じゃないなあ・・・
・・・でもオレンジ色の風船を見てたら、あの雌ダヌキの顔が・・・
タヌキのポクは目を拭って、イノシシの風船の表面を見つめた。
「ごめん。あのタヌキが探してたのは無地だった。
この風船は、何か文字が書いてある。」
「あっそう?」
イノシシのブッピは、更にオレンジ色の風船に息を吹き込んだ。
「あ・・・この風船、まだ膨らますの?」
タヌキのポクは耳を塞いだ。
「うん!割れるまで膨らまそうと思って。」
「!!」
「ぶおおおーーーっ!!」
イノシシのブッピは、思いっきり風船を膨らませた。
風船は、大きくパンパンになった。
「割れるう!割れるう!もうこれ以上膨らませないで!!」
タヌキのポクは、慌てて叫んだ。
「あっ!蹄が滑った!」
ぷしゅーーーーーっ!しゅるしゅる・・・
ひと吹きで破裂する位に膨らんだ風船は、イノシシのブッピの息を吹き口から吹き出してぶっ飛び、萎んで怯えるタヌキのポクの頭に落っこちた。
「ごめーん!」
イノシシのブッピは、大きな鼻の孔をポリポリと掻いて、呆然とするタヌキのポクのそばにやって来た。
「ひえっ!風船からよだれが・・・」
「うーん、葉っぱを乗せてタヌキさんみたい。」
「もう早く、ばっちい風船どけて!」
ひょいっ。
イノシシのブッピは、タヌキの頭のオレンジ色の風船をどけて、爪でシワを伸ばした。
「お前、俺と同じだな。」「えっ?」
「俺も『あぶれ雄』だ。雌にふられまくって、孤独なイノシシさっ!」
「仲間・・・」
「ま、気にするな。『恋をする』って言うのは、風船と同じだ。」
「風船?」
タヌキのポクは、首を傾げた。
「風船は空気を入れると膨らむが、突然尖ったものに触れるとか空気を入れすぎると、パンクする。」
「うんうん。」
イノシシのブッピがまた風船をくわえるのをタヌキのポクが見て、不安になった。
「吹き口を離すと、空気が抜けて萎む。
恋も同じで恋い焦れると『恋人』への気持ちが膨らむが、不可抗力で失うこともある。」
「だから、『恋人』にふられたら風船の空気を抜いてまた新しい空気入れるように、また新しい『恋』を探せってこと!」
ブッピは風船に息を吹き込みながら言った。
「でも、僕・・・あのタヌキじゃないと・・・」
ポクは反論した。
「イノシシさん。おいらはどうしても、あの雌じゃなきゃいけないんです!」
タヌキのポクは、顔をイノシシのブッピの真ん前に突き出して言い放った。
「どして?」「どうしても。」
「ほほう。一途な恋ですなあ!」
イノシシのブッピは、目を細めた。
「一途な思いは、やっぱり美しい!俺は毎年変えてるけどな。恋人。」
「毎年!?」
「悪いか!!」
イノシシのブッピはそう言うといきなり、くわえていたオレンジ色の風船に思いっきり息を吹き込んだ。
ぶおおお!!
ぶおおおおおーーーーーっ!!
「うぎゃーっ!いきなりパワフルに風船を膨らまさないでぇー!」
タヌキのポクは、みるみるうちに大きく膨らむイノシシのブッピの風船に、耳を塞いで叫んだとたん・・・
ばぁーーーん!!
イノシシのブッピの膨らせた風船は、物凄い音をたててパンクした。
「ばたんきゅー・・・」
タヌキのポクは、思わず気絶した。
「あれぇ?タヌキさぁーん。いきなりこんな所で『タヌキ寝入り』しないでよおー。」
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