7#ネズミの風船

  穴の空いた赤い風船は、どんどんどんどん萎んでいった。


 「僕・・・僕が膨らませてくる!!」


 クマネズミのブクイは、赤い風船を手繰り寄せようとした。


 「ダメだ!!」「何でえ!!」「息を入れても風船は浮かない!!」「いや、やる!!」「強情だなあ!!」「膨らませたい!!」「危ないから諦めろ!!」「何で諦めなきゃいけないんだ!!」


 2匹は揉みくちゃに喧嘩しているうちに、赤い風船からヘリウムガスが抜け、段々高度が下がってきた。


 「うわぁ!風船がこんなに萎んじゃった!!」「騒ぐな!!ブクイ!!」 「うわっ!!うわっ!!」


 赤い風船は殆ど萎みきり、しおしおになってきた。


 「うわっ!!うわっ!!あれ?」


 クマネズミのチャブとブクイは無事に着地していた。


 2匹は足元にアスファルトの地面が着いた瞬間に、ほっと安堵した。


 「助かった・・・」「ふぅ・・・」


 と、同時に萎みきってゴムが伸びきった赤い風船が、2匹に覆い被さった。


 「うわあああああっ!!前が見えない!!」


 「ひえええええええ!!向こう側から、凄い音が・・・」


 それは、乗用車が向かってくる音だった。2匹は道路のど真ん中に降りたっていたのだ。


 「危ない逃げろ!」


 2匹は異口同音に叫んだ。


 間一髪。乗用車のタイヤは、丁度2匹の尻尾の先っちょをかすめるただけだった。


 「あわわわわわわ・・・危うく車に引き殺されるところだった・・・ありがとう!ブクイ!!」


 「いいや、こちらこそ!教えてくれたのはチャブさんだよ!」


 「うわっ!!また危ない!!」また2匹は異口同音に言った。


 今度は逆方向から、トラックがやって来た。


 「こわっ・・・!早くここから逃げ出そう。」

 



 「ふぅーー・・・ここまで逃げたら安心だ。」


 2匹は高架下の橋桁にぺたんと座り込み、肩で息をしていた。


 「おーい!!」


 向こう側から誰かが走ってきて、2匹を呼び掛けた。


 「ん?あ、なあにいったい。」チャブは、そのネズミが同僚のナンソだとすぐ分かったが、とてもやつれていたのにびっくりした。


 「んもう、いまさっきからずーーーーっと君達の風船を追いかけて走ってきたんだよ!!あの山で、キツネやタヌキやアナグマに追いかけられた時には、命がいくつあっても足りなかったよ!!」


 「えーっ!!今まで追いかけててたと。お手数かけてごめんね。」


 チャブは、ナンソに平謝りした。


 「それはそうと、あの祭で拾った食い物を持ち寄って、みんなで宴会しようってリーダーからの伝令なんだけど。」


 「それを伝えるために、今までずーーーーっと追いかけてたの?!わざわざすいませんね。」


 「だから、他人事のように言うなよ。」


 「宴会だってえーーーーーーーーーーーーーー!!」


 食いしん坊のブクイはときめいて、目を輝かせた。


 「んもうブクイったら、食い物だけかよ。」


 チャブは呆れ顔で言った。


 「ねぇねぇ!!宴会には何があるの!?教えて、ナンソちゃーん!!」


 「んもう、ブクイは馴れ馴れしいなあ。たしか、豚汁の残りとか、焼きそばの食べ残し、落っこった弁当のオカズとか・・・デザートにチョコバナナやリンゴあめの落ちてたのやポップコーン・・・」


 「うひょーーーーーーーー!!食いてえーーーーーーーーーーー!!早く行こう!!チャブ!」


 「うわっ!!おいらを引きずるなブクイ!!おいらとお前はまだ、風船の紐で一緒に結ばれていることが分からねーのかよ!!」


 「そう慌てんな。ちゃんと君達の分は残してあるからな。」


 先頭を走るナンソは、呆れ顔で言った。




 外は既に夕闇から夜の戸張が降りてきていた。


 人間達のお祭りは片づけられ、既に終わったが、ネズミ達のお祭りはこれからだ。










 ~クマネズミの空飛べ!風船~


 ~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クマネズミの空飛べ!風船 アほリ @ahori1970

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ