6#カラスと風船
「んもう・・・この森やだ!ばっちいリスとか毒ヘビとか飛んでくるわ、どんだけおいらを邪魔すりゃ気が済むんだぁ!」
紫色の大きく膨らんだゴム風船の紐に括られてフワフワ飛んでいるクマネズミのチャブは、ぶつぶつ独り言をつぶやいた。
「本当、おいらはどこまで飛んでいくのかなあ・・・行くところまでいってみよ。
空は気持ちいいし・・・ん!?風船の束が浮かんでる。でも、この束がは見覚えがあるぞ。あれ?なんかが集ってる・・・」
チャブは、なんだなんだとその風船の束に向かって手足をばたつかせて向かおうとしたが、一向に進まなかった。
「うんしょ!!うんしょ!!うんしょ!!うんしょ!!」
まだまだもっと、手足をばたつかせて・・・
「うんしょ!!うんしょ!!うんしょ!!うんしょ!!」
今度は何とか進むことが出来た。
が、いきなり・・・
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
「うわっ!カラスが2羽も群がって風船を割りまくっている!」
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
チャブは、2羽のカラスが割りまくっている風船の束の中を見て、ぎょっとした。
チャブは、太っちょのネズミが割れる風船に怯えているのを発見した。
「ブ・・・ブクイじゃねえか!何ででここに?!」
ブクイは耳を塞いで、いつ風船が全部割られて墜落するか恐ろしくて悲痛な面持ちで凌いでいた。
「うわああああああ!こうしちゃいられない!急いで助けなきゃ!・・・しゅかし、全然進めねえなあ!この風船!」
その時、一瞬のことだった。
パァン!
いきなり別のカラスが来て、チャブの紫色の風船を嘴で割ったのだ。
「うわああああああーーーーーーー!」
チャブは待っ逆さまに墜落した。
「おっと!」
間一髪!
墜落していくチャブを受け止めたのは、先に風船で飛んでいた時に襲いかかってきた、トビのスピーだった。
「また会ったね。今さっきは簡便なっ!休戦といきますかぁ。」
クマネズミのチャブは、いつそのトビに食われるかたじろいだが、別にそんな気はないことが分かりほっとした。
「ネズ公や、あの風船の束に行きたい訳ね。じゃあ行きますかぁ!」
トビのスピーは旋回するとカラスが群がる風船の束目がけて、クマネズミのチャブを落っことした。
「それーーーーーーとつげきーーーーーー!」
クマネズミのチャブは、カラス
が群がる風船の束めがけて落下した。
「おっとっと!」
チャブの体は、到達と共に一つのオレンジ色の風船をぴたっと掴んだ。
「ふぅ!まさか、ベタベタした体が役に立つなんて・・・うわぁ!」
突然カラスの嘴が、チャブの掴んでいる風船を襲った。
パァン!
「うわあああーーーーーーーー!おっ!」
真っ逆さまに墜落する寸前を食い止めたのは、その無数の風船に結ばれたチャブの仲間のブクイだった。
すんでで、墜落するチャブの尻尾に噛みついて防いだのだった。
「あ・・・有難う・・・ブクイ。」
「どういたしまして!うわっ!」
パァン!パァン!パァン!パァン!
まだ、カラスの風船への襲撃は止まらなかった。
「ど・・・どうしよう・・・僕達やっと出会えたのに、今度は一緒に墜落死・・・」
「何言ってるんだブクイ!つーか、何でお前がここに?」
「あの時テントの風船の紐と切ろうとしたら、僕の体に絡みついて・・・げぇっ!」
ブクイは風船の束が殆どカラスに割られて、もう2つしか無くなっていた。
「くわばらくわばら・・・僕と君との出会いは何時だっけ?」
「確か・・・スーパーのゴミ置き場でネズミ取りに捉った君を見つけて・・・って走馬灯流すなよブクイ・・・!」
パァン!
「ひぁあああああ!もう一個しかねえ!」
「うわああああ!もう駄目だあ!」
その時だった。
バシィッ!
他から来たカラスと割っていたカラス同士が、いきなり喧嘩を始めたのだ。
「これは拙者が割る風船だっつううの!つーか殆ど割りやがって!少しぐらい残せつーの!」
チャブの風船を割った張本鳥のハシブトガラスのジョイは、挙ってブクイの無数の風船を割り捲っていた張本鳥達のハシボソガラスのカースケとカーキチに喧嘩を吹っかけた。
「るせんだよ!遅出しジャンケンだろ?風船割りは早いもの勝ちが常識だ!お前こそ間違っているんだよ!」
ハシボソガラスのカースケは腹が煮えくり返っていた。
「ジョイとやら!風船割り一万個と豪語してほざいていて生意気なんだよ!」
カーキチも、怒りが混みあがっていた。
「うるせぇ!」
「2羽対1羽とは卑怯だぞ!」
3羽のカラスは、後一個しかない赤い風船の前で激しくぶつかり合っていた
「うわあああ!風船が!風船が!」
チャブの腕は、紐にぶら下がって限界に達していた。
カラス同士が嘴で、脚の爪で、翼でやりあう度に一つの赤い風船が揺れ、もう力が抜けてきたチャブの腕を翻弄した。
「もう・・・駄目だ・・・さようなら・・・ブクイ・・・」
チャブは、そっと風船の紐から手を離した。
「チャブさああああああん!」
ビョーン・・・
「あれ?」
「僕が隙を見て君に結んであった割れた風船の紐を、僕の紐に結びつけてやったよ。」
「ブクイぃぃぃぃ!ありがとおおお!
」
チャブはブクイにみしがみ付いて、おいおいと泣いた。
「泣くなってチャブ・・・僕だって、スーパーでネズミ取りに捉った僕を助けなかったら、僕、今生きて無かったぜぇ・・・って・・・何だか若干風船の高度下がってないか・・・?」
「ああっ!」
チャブが涙目で1つ残った赤い風船を見て、血の気が引いた。
しゅーーーーーーっ・・・という音がしていた。
赤い風船が、カラスの喧嘩の煽りで拍子で爪か何かが触れ、表面に穴が空いてヘリウムガスが漏れていたのだ。
「うわあああああ!!どうしよう!」
チャブの嬉し涙が一変して、畏怖の涙になった。
「ひえええええええ!」
2匹はお互いに抱きしめあい、命乞いをした。
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