5#ヘビと風船

 「ふぅ・・・。何でリスなんかが飛んでくるんだよ!!まじ危ねぇー!うわぁ!あのリスばっちいなあ。体がベトベトする・・・」


 紫のヘリウム入りゴム風船を付けたクマネズミのチャブは、更に森の上をふわふわと飛んでいった。




 「うーん・・・あの風船何とか獲りたいなあ。しかも旨そうなネズミまでぶら下がってるじゃねーか!


 あの風船を体に付けて空を飛べたらなあ・・・しかもネズミの弁当付きときたもんだ!」


 一匹のヘビが森の木々に見え隠れする紫の風船をじっと蛇睨みをしていた。


 「あたいも皆と混ざって騒ぎに加わりたいけど、皆あたいを見ると『毒ヘビだあー!』とか言って逃げ出すから嫌!あたいはあたいで行くわよ。」


 ヘビ・・・毒ヘビマムシのウボは小さい鼻の孔で息を深く吸うと、手当たり次第に木をよじ登りネズミのチャブの付いた風船を取ろうとした。


 「くそっ!行っちゃった!」 


 「ああっ!もうちょいだったのに!」


 「よし!チャンスだ!あともうちょっと体を出せば・・・」


 マムシのウポは長細い体をぴーん!と張り、枝の先を尻尾の先に巻きつけた。


 「もうちょっと!もうちょっと!」


 マムシのウポは、めいいっぱい頭をせり出した。


 その時だった。


 パキッ!


 尻尾で巻きつき固定させた木の枝が、いきなり折れたのだ。


 「うわあー!」


 ぼむっ!ぼむっ!


 真っ逆さまに墜落したマムシのウポは、何だかふわふわとした毛皮に受け止められた。


 「んん・・・何だよ・・・」


 毛皮の下から何か野太い声が聞こえてきた。


 「えっ!うわっ!」


 そのふわふわした毛皮正体は、ツキノワグマのムーニだった。


 「あー!ヘビさんだ。」


 「ちゃう!マムシですお、クマちゃん!」


 「ふーん。で?」


 マムシのウポは、クマのムーニの獣臭い鼻息がもろに顔にかかると、ゾクッとした。


 「か・・・噛んじゃうぞぉー!あたいが噛んだら毒が体に回って死んじゃうぞー!」


 マムシのウポは、鋭い牙を剥いてしゃーっ!と口を大きく開けて威嚇した。


 「で?」


 クマのムーニは、むくっと起きた。


 「うわーー!」ドサッ!


 マムシのウポはクマのムーニのお腹の上から地面にずり落ちた。


 「ふぁーあ・・・よく寝た。」


  ムーニは大あくびをすると、むんずとマムシの尻尾を掴んだ。


 「ねえ、君はいったい何がしたいの?」


 ウポはガタガタブルブルと体をこわらばせた。


 「あ・・・あの空に飛んでいる風船を・・・ほら、紐にネズミが結んである・・・」


 「ネズミさん?ほほう。じゃ、風船は僕が。」


 「お腹ポンポンの風船デブが風船をねえー!ぷぷっ!お似合いねえー!」


 「なん・・・だと?!」


 クマのムーニは、ブンブンブンブンとマムシのウポを振り回し始めた。


 「うわぁーーーーっ!目が回るうううううう!」


 「誰が風船デブじゃーい!」


 「うわあああーーーっごめんちゃーい!」


 「なーんてねっ!ほおら、取っこぉーい!」


 ぶぅん!


 クマのムーニは、空にふわふわ浮いているネズミの付いた紫色の風船に向かってぽーーーーーん!と頬り投げた。


 「うわあああーーーーーーーっ!」




 「ん!?何かが飛んでくるぞ!?」


 風船にぶら下がって飛んでいるネズミのチャブは、下から何かが向かって来る者に気が付いた。


 「げぇーっ!ど・・・毒ヘビだああーーーーっ!」


 チャブは物凄い勢いで吹っ飛んで来る、マムシのウポにビックリした。


 「ぬおおおおおお!風船んんんんんーーーーっ!」


 マムシのウポは、毒々しい口を大きく開いて風船を掴もうとした。


 「ぎえええええーーーーーっ!」


 チャブは思わず悲鳴をあげた。


 が・・・


 「あれ?」


 マムシのウポは、ネズミのチャブの風船をかすめて吹っ飛んでいった。


 「ええーーーーーーっ?」


 ウポ はそのまま失速して弧を描き、緩やかに墜落していった。


 「なにーーーーーーっ!?」


 ひゅぅーーー・・・・・ドン!ドサッ!




 ウポは、バウンドして地面に叩きつけられた。


 「きゅぅ・・・」


 そこに、ノッシノッシと別の1頭のツキノワグマがゆっくりと向かってきた。


 「だ・・・誰だい!」


 ウポは、威嚇するため牙を剥いて口を大きく開けた。


 すると、いきなり筒がウポの口にグッと押し込まれた。


 「う・・・うぷぷぷぷぷぷ!」


 マムシのウポは、突然息が苦しくなった。どころか、息が獣臭い空気に押し込まれて体がどんどんどんどんどん膨らんでいった。 


 ぷうーーーーーーーーーーっ!


 ツキノワグマのプックは、その筒から

 マムシのウポに息を思いきり吹き込んだ。



 「ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ

・・・」


 マムシのウポの体は更にどんどんどんどんどん大きく膨らんでいった。


 「うーん、マムシを膨らますとニシキヘビになると思ったんだけどなあ。まるでツチノコだなあ。もっと膨らませて、パンクさせちゃおうかなあーっと。」


 ギクッ!


 クマのプックは息を思いすきり吸い込み、頬をめいっぱい張らませて更に更にマムシのウポの体を膨らませた。


 ぷぅーーーーーーーーーっ!


 「ぷぷぷぷぷぷぷ!もほひひ!もほひひ!はれふひはふ!」


 青ざめたウポは、一瞬戦慄を覚えた。


 「こんくはいがいいは。」


 もう一息吹き込めば確実にパンクする食らいに膨らんだマムシのウポが筒とお互いくわえたままクマのプックは、ヒョイッと上へ持ち上げた。


 「ぼふはほほはひふーひひひひはほ。はほふーへふほひはひふはほ?ほーは、ほっほいへーっ!(僕の友達のムーニに聞いたぞ。あの風船を取りたいんでしょ?そーら、とっといでーっ!)」


 クマのプックは、マムシのくわえている筒を口から離して、マムシの毒が混じった吐息が体にかからないようにバッ!と逃げた。


 ぷしゅぅーーーーーーーーーーっ!しゅるしゅるしゅる!


 「うぎゃーーーーーーーっ!目が回る目が回る目が回るぅーーーっ!」




 「な・・・何だぁ!?」


 紫色の風船で飛んでいるクマネズミのチャブは、目を疑った。


 今さっき下からロケットの如く吹っ飛んできたマムシが今度は、右往左往に飛びまわって来たからだ。


 「ひいっ!ひいいっ!うわっ!うわっ!ひゃっ!獣っ!臭い!毒っ!臭い!ひいいっ!ひいいっ!」


 マムシがチャブのそばをかすめ飛ぶ度に、鼻を必死に摘まみ悲鳴をあげた。


 やがて、マムシのウポの吐き出した体の中の獣臭いクマのプックの吐息が段々少なくなり、地面にポトンと墜落した。


 「ふええーっ・・・参った・・・」


 すっかり萎んで体がしおしおと伸びきったマムシのウポは、その場でへなっとぶっ倒れた。


 ・・・・・・


 「マムシちゃん!風船は?」


 そこに、クマのプックとムーニがやって来た。


 「うーん、僕がもっと膨らましてパンクさせたら君の残骸を食べて精力を・・・」


 マムシのウポはキッ!と蛇にらみした。


 「お・・・お前らを噛んで毒を注入してやるぅ・・・投げ飛ばされたり、体を膨らませられて・・・」

 

 「さ・・・逆恨みしないでよ・・・!じょ・・・冗談だってばぁ!」


 プックは焦った。


 「冗談きついよぉー・・・あー、

あたいの風船が飛んでいくぅー・・・ネズミのおまけ付きのぉー・・・。ふ、風船待ってぇー・・・」


 ウポは鎌首をあげて、視線から消えていく紫色の風船を恨めしそうに見つめた。」


 「ばたんきゅー。」



 マムシのウポはその場で気絶した。


 「おーい。」


 つんつんと、木の枝でマムシのウポを突っついているクマのプックとムーニの側に、ノウサギのドレミとその恋人のレモンがやって来た。


 「クマさん、何やってんの?」


 好奇心旺盛な雄ウサギのレモンが声をかけた。


 「おいおいレモン、クマの側に近寄ると食われても知らんわよ。」


 雌ウサギのドレミにキッとレモンを睨んで言い放った。


 「マムシさん。」


 クマのムーニはよだれを垂らして振り向いた。


 「ひぃっ!」


 レモンはたじろいだ。


 「だから言わんこっちゃない!」


 ドレミは、呆れ顔でレモンを睨みつけた。


 「ごめんごめん。つい・・・(よだれ拭くムーニ)このマムシさん、空に飛んでた風船取れなくてふてくされてんの。」


 「別にふてくされてんじゃねーよ!ただあたしは、ふてくされてんだよ!

 マムシのウポはガバッと鎌首をあげたかと思うと、一言言って再びクタンと倒れた。


 「ふーん、君もか。取れないねえ、あれは。」


 イノシシのブッピの鼻水と鼻くそだらけのニホンリスのグリボンがそこにやって来て、うんうんと頷いた。


 「うるせえバカ!この汚物リス!」


マムシのウポはまたガバッと鎌首をあげたかと思うと、一言言って再びクタンと倒れた。


 更にメジロのマックとドベル、野良犬のカイザー、テンのライザ、イタチのレグノ、ハクビシンのノーク、シカのベニイとフラコ、イノシシのブッピ、そして他の森の動物達が次々といっぱいやって来て、全員は異口同音にヘナーッと伸びているマムシのウポに言った。


 「ドンマイ!!」



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