3#山林の風船
「風船だわ!風船だわ!」
ビル街を通過して雑木林がうっそうと茂る郊外に出た途端、今度は側面から並走して飛んできた通りすがりのメジロのマックとドベルが、その飛んでいる紫の風船に見とれていた。
「あれ?ぎょぎょっ!ネズミがいるぞ!!」
「こんちわ~メジロさあん!やっほー!」
クマネズミのチャブは、どや顔をして手を振った。
「こんな所で何してるの?ネズミさん。」
「風船が割れて落っこったら、たまったもんじゃないわ!」
風船の割れる音が怖いメジロのマックとドベルは、恐る恐る小さい翼を羽ばたかせ近寄りドギマギして声をかけた。
「だあいじょうぶ!たまには空中散歩もしたいもんさっ!」
クマネズミのチャブは、空を見つめてうっとりとして言った。
「じゃあ、気を付けてねー!良い旅をー!」
メジロのマックとドベルと別れたチャブは、うつらうつらと瞼が重くなり、遂にはぐーすかぐーすかと眠りこけてしまった。
「なんじゃあ!ここは!」
目が覚めたクマネズミのチャブは、眼下に見えている景色を見て驚いた。
見たことのない山林がどこまでも広がっていたのだ!
ピーヒョロロー・・・
どこ共も無く、一羽のトビが紫色のゴム風船目がけて飛んできた。
「いえーーーーーい!!風船!しかもネズミのオマケつきぃ!」
トビのスピーは目を爛々と輝かせて、風船に向かって爪を立てて向かってきた。
「うわあ!まじやべえ!!」
クマネズミのチャブは、わざと体をゆらゆらと揺さぶり反動をつけて、トビのスピーの鋭い爪の攻撃を避けまくった。
「くっしょーっ!!このっ!このっ!このっ!」
縦横無尽に飛び交うトビのスピーは、ふわふわしてなかなか捕まれないネズミの付いた風船に、焦りまくった。
チャブは、やたらブンブンと体を振り回したものだから、目を回してしまいどこが上か下か訳が分からなくなってしまった。
「わぁーっ!!うわあーっ!!」
いきなり目の前に、トビのスピーの脚の鋭い爪が迫ってきた。
「駄目だあー!おいら終わったあー!」
丁度その時、
びゅうー!びゅうー!
いきなり、突風が吹き抜けてきた。
クマネズミのチャブと、トビのスピーは突風に煽られて、バアッと離された。
「うわあーーーーーーっ!!」
突風に煽りに煽られた、チャブが結んである風船は、今度は山林の中の草原沿いを低空飛行を始めた。
「もうどうにもなれってんだあ!!うはー!!スリルあるうー!」
チャブは、かえって風船に煽られて右往左往するのが快感になった。
「ばうっ!ばうっ!風船だあ!!風船だあ!!風船待ってえー!」
「うわあ!犬だ!!犬恐い!!」
いきなりの犬の吠え声にチャブはビックリした。
その草原には、野良犬・・・元猟犬の耳の垂れ下がった、黒ブチ模様のポインターのカイザーがいた。
カイザーは、はっ!はっ!と舌を出して、猟犬時代から大好きだった風船へ向かって必死に走ってきた。
「犬恐い!!犬恐い!!犬恐いー!来るな!!来るな!!」
犬が大の苦手なクマネズミのチャブは、もがいてもがいて大騒ぎした。
「風船!風船!欲しい!!」
犬のカイザーの前脚が、チャブの細い尻尾に何度も触れる度に、チャブは「嫌!!嫌!!あっち行け!!しっしっ!!」と大騒ぎした。
「飛べ!!飛べ!!もっと高く飛べ!!風船!」
チャブは風船の紐を手繰って、ぽーんぽーんと低空飛行している風船を上へ突いた。
すると、風船はふうわりと上へ上へと舞い上がって、元猟犬のカイザーの手の届かない程上空に揚がっていった。
「ふぅーっ・・・助かった。」
クマネズミのチャブは、やっと胸を撫で下ろした。
「あーあ、飛んでっちゃった・・・それにしても、紐にネズミがいたなあ。一緒に飛んで来たのかなあ。友達になりたかったなあ・・・」
犬のカイザーは残念そうに大空を見上げていた。
ネズミのチャブを付けた風船は、森の中に入っていった。
「やばくね?枝に風船が触れたらパンクしちゃうよぉ・・・!」
森の中に吹く微風に風船が右往左往する度、チャブの心臓はドキドキと踊った。
「あっ!風船だ!!風船!風船!」
テンのライザは、木々をぬって飛んできた風船に目を輝かせた。
「何?風船だと!!」
ライザの隣で眠りこけていたイタチのレグノは、風船と言う言葉にばっ!と起き上がった。
「ややっ!!風船になにか結んであるぞ・・・うわー!!旨そうなネズミじゃねーか!!」
レグノの口からよだれが垂れた。
「じゃあ俺が風船貰うから、君がネズミねっ!」「がってん!」
テンのライザとイタチのレグノのコンビは、ネズミのチャブを付けた風船を必死に追いかけた。
「げっ!!やばいのが追いかけてきた!」
クマネズミのチャブの顔は青ざめた。
更に、思っても見ない事が起こった。
風船がまた森の微風に煽られて、高度を低くしたのだ。
「うわっ!うわっ!来るな!来るな!」
チャブの長細い尻尾に、ふぅっ!ふぅっ!と興奮したテンのライザの鼻息が触れる度にチャブはゾオッとした。
「ひいっ!!ひいっ!!」
チャブは必死に風船の紐を手繰り寄せ、吹き口を摘まむ姿勢となった。
「うわっ!うわっ!近寄るな!!」
チャブは、恐怖でブルブルと震えた。
「待ってぇー!!ふうせえええぇぇん!!」
遂にテンとイタチの前肢の鋭い爪が、チャブを掴んできた。
「うわっ!捕まる!!捕まる!!イタチにテンに喰われる!風船が爪に触れたらパンク・・・うわーっ!」
チャブは捕まるまいと体を揺さぶって、テンとイタチの爪の攻撃を牽制した。
その時だった。
ふうわっ・・・
突然巻き起こった微風が、風船を上へ上へと舞い上がらせた。
「ふぅ・・・何とか巻いた・・・ん!?」
チャブがテンとイタチの攻撃を逃れて命拾いしたとたん・・・
「ああっ!!風船だぁ!!綺麗だなぁー!あっ!ネズミのおまけ付きー!」
今度は太い木の枝から、ハクビシンのノークが飛び込んできたのだ。
「上から下からうわー!!」
ふわっ・・・
突然、また微風が吹いて風船が揺れた。
「ん!?」
ノークの体は、チャブの風船を逸れて空中でもがいた。
「うわっ!うわっ!うわっ!うわーーーーーーーーっ」
ひゅーーーーー・・・ドスン!!
ハクビシンのノークは、テンのライザとイタチのレグノの上に墜落した。
「痛てえなてめー!!」「何してんだてめー!!」
「あっ・・・しまった!ご・・・御免なさああああーーーいッ!!」
ハクビシンのノークは、テンのライザとイタチのレグノにボッコボコに袋叩きにされた。
クマネズミのチャブを付けた紫色の風船は、木々の隙間をするりと抜けて外に飛び出して行った。
「はぁー、ビックリした・・・森のなかは天敵が多くて怖いぜ。」
チャブの体はまだ震えが止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます