2#街中の風船

 紫色のゴム風船に体を結んで飛んでいったクマネズミのチャブは、空の旅を思う存分楽しんでいた。


 上を見ると、風船のつやつやした表面は日の光でプリズムのようにキラキラと輝き、下を見るとめくるめく街並みや道路や川がまるで箱庭のように広がっていた。


 「うーん!やっぱり気持ちいいなあ・・・!まるで鳥になった気分だなあー!」


 風船は、そよ風に乗ってフワフワと揺れながらネズミのチャブが知らないいろんな風景を見せてくれました。


 どこまで飛んでいったのだろう。


 やがて工場が立ち並ぶコンビナートまで来た。


 「そうだこのそばには、おいらのライバルのネズミ共がいるんだな。ふふふ!おいらが今空の上にいることを知らないんだなあ!どうだ!うらやましいだろう!」


 チャブは、コンビナートの横の通り道をどや顔で見下ろした。


 うっかりよそ見をしていたクマネズミのチャブ。


 「うぅっ・・・!ゲホッ!ゲホッ!」


 そぐそばの工場の煙突の煙の中に突っ込んでしまい、むせいでしまった。


 「あーびっくりした!」


 紫色の風船は、しばらくそよ風に運ばれて飛んでいった。


 やがてビルが聳え立つ都会に出た。


 「うわあああ!」


 風船は、ビル風に煽られてあっちふらふら、こっちふらふらと縦横無尽にふり回された。


 「きゅうううう・・・」


 さすがのネズミのチャブも、目を回してしまった。


 「おっ!風船!」


 そこに現れたのは、スズメのチュンタだった。


 「久しぶりだなあ。こんなところで風船を見るなんて。」


 ムクドリのムックも一緒だった。


 「ややっ!風船の紐にネズミがいるぞぉ!」「本当だ!」


 ネズミのチャブはギクッ!とした。


 「やあ、鳥達。今、僕は空中散歩を楽しんでいる所なんだ。」


 チャブは、ぎこちなく緊張した気持ちで答えた。


 「ばいばーい!気をつけてねー!風船を尖ったものに触れないようにねぇー!」


 スズメのチュンタとムクドリのムックは、ビルの向こう側に飛んでいく風船を見送った。




 風船は、6車線もある高速道路の真上に差し掛かった。


 ゴオオオオオオオーーー! 


 「うわーーーーーーーーっ!!」


 いきなり目の前にトラックが迫ってきた。


 ふわっ・・・


 ネズミのチャブがトラックの車体に激突する寸前に、風船が飛び上がった。


 「ふぅーーーーー・・・ビックリさせるなよ・・・


 チャブが命拾いしてる間に、また目の前に乗用車が、


 ブロロロロローーーーー!


 「ぎょえええええええー!!」


 ふわっ・・・


 また風圧でチャブの付けた風船の紐がゆらっと揺れ、はねられるのを免れた。


 「怖えええよおおお!!車怖えええよおおお!!」


 チャブは、必死に前かきして高速道路から逃れようとした。


 プップゥー!


 クラクションを鳴らして、大型トラックがチャブの目の前に迫ってきた。


 「ぎゃああああーーーー!!もうだめだあああああーーー!」


 ふわっ・・・


 クルクルと風船は円を描き、高速道路から飛び出した。


 「目が回る目が回るうううう!」

 

 クマネズミのチャブを紐に付けた紫の風船は、体勢を整えてまたふわふわと空高く飛んでいった。 


 「うわー!!危なかったぁ!ふぅーーーっ・・・空の旅も楽じゃないなあ!正にスリルと興奮ってもんだなぁ。」


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