5話 よろしく寝床
新人研修ということで、僕のペアとなったダーリア・モンドさん。ランクは『4』。『9』から『1』まである中での『4』かなりの強者という事だ。
長い赤髪が印象的で、すっごく美人。スレンダーな身体で背丈は僕よりちょっと上くらい。瞳がきりっとしているから、年齢のわりに大人びた雰囲気を醸し出してる。
僕、リムフィと同い年らしい。年齢を聴かされて驚いてしまった。年上だと思ってた。
そのくらい大人な女性っていう立ち振る舞いというか、魅せてくるのだ。
「じゃあ明日からさっそく『魔狩り』でもやってみようか。都合は大丈夫?」
さっそくか。
この異世界に来てもう17年目に突入しているが、まともに外を歩いたのはここ最近。まったくリハビリが足りてない。
しかしそんなことを言えば何事かと怪しまれそうだから、首を縦に振っておいた。
現在は『魔狩り連盟本部』の酒場スペースにいる。大きなテーブルを二人で貸し切り状態にして話している。
「とりあえず適当に、私が新人向けのやつを見繕っておくよ。さほど強くなく、だからといって超弱いとまでいかないような絶妙な難易度の依頼、探しとくから」
「えっ……なんか申し訳ないです、やってもらってばっかりじゃないですか」
「うん? 何かやってみたい依頼でもあった? それでもいいよ?」
「いえ……特には。じゃあ、お任せします」
「うん、任せて。えっと……リムフィくん、でいいかな? 呼び名」
「あー……別に何でも構いませんよ。ダーリアさんにお任せします」
「じゃあリムフィくんで。私のことはダーリアって呼び捨てでいいよ」
「さすがに……恐れ多いですよ」
「ふふっ、遠慮がちだね。リムフィくんはもう今夜は休んで。明日から一緒に頑張ろう」
「……わかりました。すいません、お先に失礼します」
「なんか堅苦しいね。まぁいいや、また明日、朝にここで待ってるから。おやすみ」
ダーリアさんの声を聞いて、すぐに『魔狩り連盟本部』から退散する。
……人と関わるのってこんなに疲れることだったっけ? 12年のブランクはやっぱり長いな。人との関わりが大事だって言われたし、そういうところもちゃんとしていかなくては。コミュ症では世渡り上手にはなれない。
「あっ……寝床」
しまった。面接とかあったからすっかり頭から抜けていた。レーアさんに危機に行かなくては。たしか部屋の貸し出しをやってるみたいだった。
金は『魔狩り』の給料が入り次第と交渉するしかない。金が手持ちにないから後払いにさせてもらわねば、野宿確定だ。
僕はまた『連盟本部』の玄関から中へと入り、受付カウンターでレーアさんと対面する。
受付に行くまでにダーリアさんが微笑みながらこっちを見てきた。ついさっきおやすみの挨拶までして、また会うのはちょいと恥ずかしい。
「あら、どうされましたか?」
不思議そうにレーアさんが僕に尋ねてくる。そしてすぐに「ああ、そういえば」と続けた。思い出したらしい。
「すいません、宿のことですよね? 今すぐ手配させていただきます。料金は……」
この世界、というかこの国の通貨はほとんど持ち合わせていない。服を貰ったついでに財布ごと金を貰ってはいるが、財布の中には2000レクしかない。日本円で言うなら2000円。日本と同じ感覚で考えられる。
2000レク。これで宿泊はほぼ不可能じゃないか? 日本だったら1万円は欲しいところだが……」
「格安なら1000レク。最高で10万レクですね」
「格安でお願いします」
常識が違うからこそ、助かった。1000円くらいの出費で泊まれる場所があるとは。
「では……この用紙をお持ちになって、牧場の方までお願いします。管理人の方に用紙と先ほどお渡ししたカードを見せていただければ大丈夫ですので」
牧場……? 近くとかそういう発言がなかったのは言い忘れかな?
そしてレーアさんに言われた通りに牧場までやってきた。看板があったのですぐにわかった。
牧場の入り口近くにあった小屋に入って、そこにいたオジサンに聞いてみた。
そしてカードと用紙を見せたら、馬小屋に案内された。どうやらオジサンは管理人らしかった。
「1000レクだとここが精一杯だからな。稼げるようになれよ『魔狩り』の小僧」
そう言って管理人さんは僕を置いて馬小屋を出ていく。
馬はいない。藁ばかりの小屋。とりあえず雨風はしのげるし、最低限のプライバシーだって守れるかもしれない。
でも、できることなら泊まりたくはない。臭いがキツイ。独特の獣臭さが小屋に充満している。そしてもちろん布団とかベッドの類はなく、藁のみ。
僕は大量に積まれた藁の上に寝転がって、近くにたたんであった布を毛布代わりに身体にかける。
そしてそのまま、僕はゆっくりと眠りに落ちた。
そんで翌朝。眠りに落ちはしたが熟睡はできなかった。まだ眠たい。瞼が勝手に落ちてきそうだ。でもまたここで二度寝は嫌だ。
とりあえず起きて、身体にくっついた藁を払う。髪にもくっついていて鬱陶しい。
……もしかしてあの布って下に敷くヤツだったのか?
僕は布をたたみながらそんなことを考える。ずいぶんマヌケなことをしたな。
昨日のダーリアさんとの別れ際の言葉を布をたたみながら思い出した。そういえば朝にここで集合とか言っていた。急いで向かうとしよう。
僕は布を元の場所に戻して、馬小屋を出る。そしてすぐ小屋に行き、管理人に代金を支払っておく。財布の中身が頼りない。
だが今日から稼げる。
少しはそれっぽくなってきた気がする。何がとは言わないけど。
急いで走り『魔狩り連盟本部』に到着。すぐに扉を開ける。
扉を開けてすぐに、ダーリアさんを発見した。テーブルに頬杖をついて上の空でいる。
「おはようございます。すいませんダーリアさん、遅れてしまって……」
「……あぁおはよう。いいよいいよ。そんなに遅れてないから」
ふぁ……と口を開けて欠伸をするダーリアさん。寝不足なのだろうか?
ダーリアさんは首を少し回して、じゃあさっそくといった感じで掲示板へと向かっていった。僕もそれについていく。
「新人向けなのはこれかな。森に出現した魔物退治。
魔物。それが『魔狩り』の
魔物とは魔力を身体に宿した生命体で、魔術を扱うモノもいる。大体の魔物は好戦的で、どの生物に対しても敵対する。例外はあるにしろ、自己種族以外は敵視している生物だ。
そして魔物が死ぬと、その魔物の魔力が拡散して他の生物が新たな魔物となる。だから死骸はきっちりと後処理をせねば、魔物は増え続ける。
今回の魔物化しかけの猫も、どっかの何かで死んだ魔物の魔力を浴びたのだろう。
「じゃ、リムフィ君が何か他に行きたいのがないなら、これに行こうか。魔物のなりそこない、2匹で3万レクだ。この手に報酬にしては良い額だよ」
命を張るような仕事なのだから、正直そのくらいは当たり前に欲しい。そう思ったけど口には出さない。強欲なヤツとみられるのは嫌だから。
「わかりました、それにしましょう」
「じゃあ決まり」
ダーリアさんは掲示板に貼ってあった依頼書をとって、受付カウンターへと行く。依頼書の内容の確認などをしてもらっているようだ。
そしてすぐにダーリアさんは、二枚の紙を持ってきた。そのうち一枚を僕に渡した。
「その紙は忘れないでね。依頼主に会う時には必須だから」
「あぁ、依頼主さんの」
契約書と記されていたから、そうなのだろうなとは思っていた。
「じゃあ、馬車乗り場に行こっか。依頼主に面会といこう」
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