4話 ダウンからアップまで
「……さて、じゃあ名前と年齢を教えてくれるかな?」
中央にいる小さなおじいさんが僕にそう尋ねてくる。絶対僕の名前知ってる。手元の書類チラチラ見てるもの。
だからって「わざわざ聞く意味ないでしょ」なんて言うわけにもいかない。
「リムフィ・ナチアルスです。歳は17です」
「よろしくリムフィ君。私の名前はジェス・ヨーガ。この『魔狩り連盟』のリーダーをやっている。今日は幸運にも暇でね、こうやって新人の面接に参加させてもらってる」
僕からしたら幸運でも何でもなく、むしろ不運。社長直々に新入社員に面接しかけてきてるようなもの。プレッシャーがさらに倍づけ。
「そう構えないでいいよ。この面接は君にちょっと質問するだけ、形だけだよ。よっぽど奇妙な返答をしない限りは大丈夫。『魔狩り』にはほぼなれるから」
ジェスさんは真ん中にいるから、僕の正面に座っている。だから僕の表情とかよく見えるのだろうけど、緊張していることを読まれるとは思わなかった。顔に出さないようにしてたつもりなのに。ポーカーフェイスには自信あったのになぁ。
「あぁそうだ。私の右にいるこの娘は現役の『魔狩り』で、この面接にはほとんど絡みはしない。絡むとしたら君が暴れ出した時くらいだ」
要は警護のためにいるってだけなのか? それ以外にも何かありそうだ。やっぱ勘ぐってしまうよなぁ。
僕の視線に気が付いた、赤髪の女性は小さくお辞儀をしてくれた。
「ダーリア・モンドです、よろしくお願いします」
「あぁ、はい。よろしくお願いします」
現在の僕とそんなに歳は離れていないようにみえる。それなのにびっくりするくらいに大人っぽいというか、色気がある。
「そんで左側のこの娘は記録係だから、ホントに面接には参加しない。君にはほぼ無関係ということで気にしなくていい」
「……レーア・フラストリです。『魔狩り連盟』で普段は受付等の事務作業をしています。ボスの言う通り、今回私は記録係なので私から質問することはありません」
なんかつらつらと喋られたけど、僕に関係ないのならどうでもいいやと、耳に入ってきた言葉を適当に記憶しておく。とりあえず名前は覚えた。それだけ。
「んじゃ、リムフィ・ナチアルス君。さっそく質問をさせていただくよ。君はどうして『魔狩り』になりたいのかな? 少しだけ詳しく教えてもらいたい」
ジェスさんの質問は、まったく予想通りの質問。そして一番返答に困る質問。
嘘で塗り固めていくか、真実を話すか。または嘘と真実を織り交ぜて話すかの3つの選択肢がある。
もちろん選ぶのは3つめ。嘘と真実を混ぜていく。
「えっと、最近まで孤児院でお世話になっていたのですが、急きょ孤児院から出ていかねばならなくなりまして……あまりに急だったもので金もほとんどない状態で。とにかくお金が必要なんです……」
やばい。これは駄目だ。しどろもどろにも程がある。緊張のせいで考えてたセリフがスムーズに出てこなかった。
「あーそうなの。そりゃ大変だ。まぁ、お金のために『魔狩り』になろうって人も多いからね。別に悪印象ではないよ」
アッハッハと笑ってのけるジェスさん。僕の緊張を少しでもいいからぶつけてやりたい。
「んじゃ次の質問をしようか。『魔狩り』についてなんだけど、死亡率の高い危険な仕事だし、嫌な人と接することも多いけど……そこらへんは大丈夫?」
「大丈夫……といいますと?」
「仕事を途中で投げ出したり、放棄したりしないかってこと。たまに前金を貰ってそのままトンズラこく輩もいるものでね。命の覚悟だけじゃなくて、いろんな人と接する覚悟はできてるかなって」
いろんな人と接するのに覚悟がいる? 命の覚悟ならわかるけど、それはよくわからない。コミュニケーションに覚悟なんて大層なものは必要なのだろうか?
「この『魔狩り』って仕事は信用が何より大事なんだ。依頼主の信用を裏切れば、『連盟』の評判は落ちる。信用の裏切り方にも色々あるけどさ……。信用を裏切らないように、リムフィ君はできるかい?」
「……がんばります」
結局はよくわからなかったが、とにかく依頼主と『連盟』に無礼なことはしないようにすればいいのだろう。あながち的外れではないはずだ。
「うん、それならいいよ。命を張るなら信用も自然に勝ち取れるから、そんな深く考えなくてもいい。気楽に、適度に緊張感を持って『魔狩り』として頑張ってほしい」
「……はい」
「じゃあ面接終わり、おつかれ。ちょっとだけ受付のあたりで待ってて」
予想より遥かに速く面接が終了した。もっと込み入った話をするかと思ったけど、本当にちょっとだけ質問をされただけで終わるとは思ってなかった。
ジェスさんが手を振って、帰るように促してくるものだから、僕はお辞儀をして部屋を出た。そして事務室的な部屋をすぐに抜けて、受付前にあるテーブルを目指した。
椅子に腰かけてテーブルに突っ伏す。
過去の来歴とか聞かれると思った。あぁでも孤児院にいたって言っちゃったから聞かれなかったのかな?
だとしても短い面接だった。あれで僕の何が分かるというのだろうか?
長くても短くても文句をつける僕はきっと、本当に心の底から面接が苦手なんだろう。
数分くらいボケーッと依頼の用紙が貼られた掲示板を眺めていると、受付からお呼びがかかった。
僕を呼んでいるのは、面接の場にいた……名前はたしか……思い出した、レーアさんだ。
「面接お疲れ様です、ミスター・ナチアルス。今後のことについて少しだけ説明をさせていただきます」
やけに妙な呼び方というか、ミスターとか呼ばれるのに僕はむず痒さを感じる。一応は元日本人、ミスター呼ばわりに慣れているわけがない。
「ミスター・ナチアルス、ジェス・ヨーガがあなたの『魔狩り連盟』への加入を許可しました。明日から『魔狩り』としての活動が可能となります。こちらがその証となる『魔狩り証』となります。再発行には料金がかかりますのでくれぐれもなくすことのないようにお願いします」
「……はい」
免許証サイズの小さな厚紙をもらった。僕の名前と年齢、そして年齢のとなりには『9』の文字があった。
「その数字は現在のランクを示しており、最高は『1』となっております。『9』は新人ということになりますね」
ランク制度があるのね。上を目指せばいいのだろうが、正直めんどうくさい。生活に困らないだけの金が手に入ればそれでいいのだから。
「そして新人のミスター・ナチアルスには新人教育として先輩の『魔狩り』としばらくペアで仕事をしていただきます」
「新人教育……ですか」
死亡率の高い危険な仕事だというなら、そういうシステムがあるのが普通だ。ペアで仕事をして『魔狩り』としての基礎を憶えろという事なのだろう。死なないために。無事に生きて帰れるように。
……まぁ僕、死なないからそこらへんはいいや。技術の習得のために先輩に学ばせてもらおう。
「ミスター・ナチアルスとペアを組んでいただくのは……えっと、ちょっとお待ちください、呼んできます」
そう言い残して、さっと受付カウンターから事務室へ走るレーアさん。戻ってきたのは数秒もしないうちだ。速い。
「えー……こちらのミス・ダーリア・モンドが付くことになります」
「ダーリア・モンドです。改めてよろしくね、リムフィ・ナチアルスくん」
ダーリア・モンドさん。面接の時にいた、赤髪の綺麗なお姉さんだ。
男としてこれはラッキー。美人さんと一緒なんて最高。
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