第1編 殺人鬼
3話 いくぞ『魔狩り』
どうも日の光が痛く感じる。チリチリとちょっぴり炙られていくような感覚。すぐに回復するから何ともないけど、日当りのいいところにいると肌に違和感を覚える。
僕は不死身ですっごい治癒能力を持ってる。吸血鬼とスライムが融合している人間です。
他の能力は微々たるものと言ったけど、一応説明しておこう。
そのいち。
どうやら他の生き物を眷属的な存在にすることができるかもしれないっぽい。吸血鬼みたいな能力はこれだけ。
研究所で何回か凶暴な魔物に実験したことがある。
鎖で繋がれた魔物の足に僕は何度も噛みついた。数十回くらい何度も噛んでようやく効果が発動したのだ。
相手が僕にのみ攻撃行動をやめたのだ。
結果としてはそれだけ。僕に攻撃しないというだけで、指示通りに動かすとか平伏させるとか、そういうことはできなかった。
つまり僕に対するセーフティロックをかけられるだけ。眷属化には程遠い。さらに何度も噛みついてようやくだから時間かかる。
本物の吸血鬼は不老不死の魔物で、噛みついた生物を自身と同じ吸血鬼に変化させ、眷属という名の奴隷にすることができるらしい。たとえそれが魔物であろうとも関係なし。
とっても強い魔物とジジイから聞いた。
そのに。
スライムの方の能力は、血が酸性のようになっていること。
強力そうに聞こえるけど、残念なことになんでも溶けるなんてことはない。鉄とかに当たるとシューッって音がするだけ。
僕の身体が溶けないのは、溶けた瞬間に治癒してるから。常時毒ダメージ受けてるけど回復もしてるんです。
本物のスライムはゼリーみたいなプルプルした魔物で、他の魔物を圧倒するほどの治癒能力を持っている。そしてプルプルした身体は強酸性で、剣とか物理攻撃を泥と化させるほどに強い……らしい。
吸血鬼もスライムも見たことないから、全部ジジイに聞いた話なのでご了承ください。
というかジジイ、融合の素材が一流なのにこの弱体化はあんまりじゃないか?
もっと、いいとこどりみたいにしてほしかったな。
はい、僕が知ってる範囲の解説終了。あとは適当にどんなのがあるのかな? 僕もまだ僕の能力の全部を知ってるわけじゃないから。
あぁ、そうだ。言い忘れてた。僕の欠陥はもう一つ。
魔法は一切扱えません。理由は、おいおい。
融合による弊害とだけ説明しておきましょうか。
剣と魔法のファンタジーという理想の世界に転生したのにこれはない。不死身というものがどれほど強いかはわかる。でも僕そのものが最高に弱っちいから活かしきれない。
先ほどのゴロツキ二人との立ち回りでわかると思う。
喧嘩においては素人なのです。無論、剣なんて握ったことない。剣道だって経験はない。学生時代は帰宅部で、塾通いをしてました。
……異世界満喫のために必要なのがまったく揃ってないね。
とりあえず、ゴロツキから服を奪うついでに金もあるだけもらっておいた。勝手に貰っちゃったけど、まぁ大丈夫でしょ。一応、心の中でごめんなさい。
現在僕は、街の外れにある『魔狩り連盟本部』とかいう妙に大きい建物の前にいる。街中にチラシが貼ってあって、場所はすぐにわかった。
何故ここに来たのか?
『魔狩り』っつーのになれば金を稼げるらしいからだよ。貼ってたチラシに書いてあった。魔物を倒して富と名声を得ようみたいなキャッチフレーズを真に受けてやったよ。
現在、ほぼ文無し状態。あるにはあるが、食事一回くらいで吹き飛ぶ金額。
どうにかして今すぐ金をつくりたい、でも借金は嫌だ。そうだ『魔狩り』になればいいんだ! ……発想がこう、如何わしい広告みたいだけど、すがるしかない。
僕は恐る恐る、『魔狩り連盟本部』の門を開く。
中には人がたくさん。大きなテーブルを囲んで作戦会議をしている人達や、テーブルを囲んで祝杯を挙げている人達もいる。
酒場のような場所もあるようで、カウンター席にもちらほら人がいる。
そんで奥には二階へと続く階段と、掲示板みたいなのがあった。受付カウンターみたいなのもそのすぐ横にあった。
とりあえず、わからないことは素直に聞くがいいの精神でいこう。
「す……すいません」
「はい、なんでしょう?」
偉く事務的な対応をしてくれた女の人、びっくりするほどに美人で、僕は緊張してしまう。ここに来る時も入る時も緊張してたから、緊張度はレベルアップした。
「『魔狩り』になりたいんですけど……」
「『魔狩り連盟』への加入の申し込みですね。少々お待ちください」
女の人は受け付けカウンターの裏側にある部屋に入っていった。そしてすぐに書類を持ってきてくれた。
「こちらに署名と現住所をお願いします」
言われた通りにスラスラと……書けない。名前も間違えそうになった、今はリムフィ・ナチアルスだった。
ナチアルスの性を誤魔化そうと思ったけど、一般的な目立たない性が思い浮かばないのでこのままにしよう。あのジジイにされたことを風化させたくないし。
問題なのは現住所。家なき子の僕はどうしたらいい?
適当な地名を書いて誤魔化すか? たぶんバレるだろうからダメだな。
……正直者は救われるらしいから、正直になろうか。
「すいません……あの今、僕家を探してるところでして。孤児院で世話になってたんですけど、孤児院にいる子が一杯で限界だったらしく……年齢が上の方だった僕は追い出されることになってしまって……」
「そうですか。なら現住所は決まり次第お願いします。お困りでしたらこちらで部屋を御貸しできますが?」
「そうなんですか! じゃあぜひ!」
思わぬ幸運。正直者は救われるってのは本当らしい。正直に言ってないけど。
「ではこの書類は後程ということで。30分ほどお待ちください。面接の方をさせていただきます」
「……面接ですか?」
「『魔狩り』として人格に問題はないかとかチェックするための、軽い質問だけなので安心してください」
ではそこでお座りになってお待ちください、といって受付のお姉さんは頭を下げて、また後ろの部屋へと入っていった。
四人用のテーブルに一人でぽつん。異世界に来たのに全然それっぽいイベントがない。
『魔狩り』ってのは、冒険者的な存在だとわかった。周囲の話を盗み聞きして僕はそう考えた。『魔狩り連盟』がギルドみたいな役割かな。
だって周りから、魔物を倒してやっただとか、強かったー、とか。武勇伝みたいな自慢話がよく聞こえてくる。情報収集にはいい。勝手に喋っていてくれる。
しばらく聞き耳を立てて、異世界に関する情報収集と頭の整理を行っていると、受付カウンターからお呼び出し。
30分経つのが速い。情報収集楽しかった。楽しい時間はすぐ過ぎちゃう。
「リムフィ・ナチアルスさん。面接の準備が整いましたのでこちらへどうぞ」
「あぁ、はーい」
さっき対応してくれた綺麗なお姉さんの呼び声にすぐに応じる。ポイントはいかほどか? 気にしちゃうよね。
……面接には良い思い出は皆無。面接って言葉を聴くだけで陰鬱になれるね。就職の時にこれでどれだけ苦労したか、よく覚えてる。
案内されたのは、受付カウンターの奥の部屋。そうやら事務室みたいな部屋らしい。他の従業員の人達が書類整理とか何かの計算とか、忙しそうに仕事をしていた。
「こちらです」
面接をやるのは、この部屋のさらに奥の一室らしい。応接室みたいな部屋に案内された。
お姉さんが扉を開くと、部屋の奥には、長テーブルと人が二人。でも椅子は三つ。
右端にいるのは女の人。受付お姉さんと同じ位、綺麗な人だった。赤髪のロングヘア―が美しい。表情もきりっとしている。クールビューティーな雰囲気を醸し出してる。
胸には鎧を付けて、それでもって籠手も付けている。何かの帰りだろうとわかる恰好。恐らくだけど『魔狩り』の人だろう。
真ん中は小柄なおじいさん。右端には受付のお姉さんが座った。
「どうぞ、お座りください」
お姉さんの一声で僕は手前に置いてあった椅子に座った。
もう心臓バクバク。面接ってやっぱり苦手です。三人に見られるっていうプレッシャーがすごく心に痛いもん。
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